言いたいことがあるのに、それを我慢してしまい、あとから後悔する。そんな経験をしたこと、ありませんか?

よくあります。この場を穏便に済ませたい。だからといって、自分の気持ちを抑えると、「もっとこう言えばよかった」と不満がどんどん湧いてきます。そうならないように、相手の意見を受け入れながら、うまく主張できるようになりたいのですが……。

そんなときに使えるのが「アサーション」と呼ばれるテクニックです。今回はその方法をご紹介しましょう。

相手と対等な立場を獲得する、自己主張のテクニック

「アサーション(assertion)」という言葉をはじめて知る人がいるかもしれません。アサーションとは、自分と相手を同じように大切にする自己表現のことです(※1)。「アサーティブ(Assertive)」「アサーティブネス(Assertiveness)」とも呼ばれます。自分の気持ちや考えなどを、その場にふさわしい方法で率直に表現し、相手もまた同じように表現することを勧める対人関係の状態です(※2)。

アサーションでは自己主張するとき、一方的に自分の意見を発信するのではなく、相手を思いやりつつ自己表現することを重視します。「人には平等に自分の意見や要望を意思表示する権利がある」という考えに基づいているからです。

そのため、次のように上下関係や利害関係が気になるプライベートやビジネスのシーンでも、お互いの価値観を尊重しながら、対等な関係を築くことにつながります。

<アサーションの活用シーン例>

●ママ友に嫌われたくないから、誘いを断れない

●取引先から無茶な要求をされたが、つい言いなりになってしまった

●後輩が辞めることを恐れて、ミスを指摘できない、など

相手と良好な関係性を築いていくためには、お互いが我慢することなく、対等に意見を言い合える状態になることが大切です。そのとき、アサーションが役立ちます。

アサーションにおける自己表現、3つのタイプ

アサーションを意識したコミュニケーションを学ぶことは「アサーション・トレーニング」といいます。それを行う前に、まずは自分の自己表現のタイプを理解しましょう。

コミュニケーションで何か問題が起きたとき、アサーションにおける自己表現のタイプは次の3つに分けることができます(※3)。

<アグレッシブ(攻撃型)>

相手への配慮がなく、自分の意見を強く主張するような自己表現を行うタイプです。相手よりも自分のことを優先して考えているため、一方的に自分の言い分を押し通そうとします。相手より優位に立とうと大声で怒鳴ったり、巧妙に言いくるめたりしようとすることも。その結果、周りから敬遠されて、人間関係に支障をきたすことがあります。

<ノンアサーティブ(非主張型)>

自己主張が苦手で、相手に合わせるような自己表現を行うタイプです。自分よりも相手のことを優先して考えているため、自分の意見を率直に言えず、自分の考えを遠慮して伝えます。その結果、あいまいな主張や言い訳が多くなりがちです。あとから、後悔や気まずさを覚えることがあります。

<アサーティブ(バランス型)>

相手への配慮を忘れず、自分の気持ちや考えを大切にしながら自己表現を行うタイプです。自分のことを第一に考えますが相手に配慮するため、自分の考えを無理に押し付けたり、人を傷つける言葉を選んだりしません。その場の状況や相手の立場に応じたふさわしい形で、自分の意見を率直に伝えることができます。人間関係が安定しやすく、あとから後悔することが少ないタイプです。

普段の何気ない行動を振り返ってみると、私はおそらくノンアサーティブ(非主張型)なことが多い気がします。アサーティブ(バランス型)以外は、自分に負担をかける自己表現の仕方なんですね。

まずは自分がその場の状況や相手によって、どのような自己表現をしているのかを理解することが大事ですね。そうすれば、「いつも会議ではノンアサーティブになっているから、アサーションを使って話してみよう」などの気づきが生まれ、自分の行動を変えやすくなりそうです。

コミュニケーションのつまづきを解消! アサーションのメリット

アサーションを使った伝え方ができると、具体的にはどのようなメリットが得られるのでしょうか? 例えば、日常生活のなかで直面しがちな以下のような問題を解決することに役立ちます。

  1. 相手を不快にさせず「NO」を伝えることができる
  2. 上司や部下に、自分の意見を伝えることができる
  3. コミュニケーションの不和によるストレスを軽減できる

1.相手を不快にさせず「NO」を伝えることができる>

言いたいことを我慢し続けたり、自分の意見を聞いてもらえなかったりすると、ストレスを溜め込むことにつながります。ストレスを溜めないためにも、要求に応えられないときは「NO」と伝えることが必要です。とはいえ、アグレッシブな伝え方をすれば、相手との関係性が悪くなることも。相手を不快にさせない配慮が求められます。

<シーン例>

ママ同士の集まりで中心的な存在の人から、あるイベントに誘われた。先約があるので断りたいが、仲間はずれにされることが怖くて断わりづらい

<アサーティブな伝え方>

「いつも気にかけてくださり、ありがとうございます。ただ、その日は子どものプールがあるから、ご一緒することが難しいんです。その日、イベントにも参加できる時間があるかどうか、ほかのママにも詳しい時間を聞いてみますね。」

<解説>

「先約がある」という事実だけを伝えれば、誘ってくれたママ友の気持ちを無視してしまうことに。そこで、事実を伝えてから「ほかのママにも聞いてみます」と代替案を提案します。歩み寄ろうとする気持ちが伝わるため、相手は感情的になることなく、こちらの主張を受け止めやすくなるはずです。

2.上司や部下に、自分の意見を伝えることができる

上下関係がある職場での人間関係は、何かと気を遣うもの。「嫌われたらどうしよう」「部下が辞めてしまったら」と考えて、言いたいことを我慢する人もいます。しかし、それでは仕事の状況を正確に伝えることができず、トラブルになりかねません。報告や指示は、きちんと伝える必要があります。

<シーン例>

部下なりに懸命に取り組んでくれたが、依頼した資料に誤りがあったので修正してほしい。しかし伝え方を間違えれば、部下が反発して業務が滞るかもしれない

<アサーティブな伝え方>

「資料を作成してくれてありがとう。申し訳ないんだけど、資料に書かれた操作手順がお客さん目線で少し理解しにくいと感じたので、もう一度見直してもらえると助かるよ。」

<解説>

相手を尊重する姿勢が伝わらなければ、部下を不快な気持ちにさせてしまう可能性があります。まずは感謝を伝えて部下の頑張りをいたわり、その上で「自分」を主語にした形で気持ちを伝えます。

部下からすれば、命令されているのではなく、事実として上司の考え・気持ちを知っただけ。責められているようには感じず、修正するかどうかは自分で決められる状態になります。「やらされている感覚」がないので、上司の気持ちを受け入れやすくなるはずです。

3.<コミュニケーションの不和によるストレスを軽減できる>

アサーティブな伝え方ができるようになると、コミュニケーションがうまくいかないことによるストレスを軽減できる効果も期待できます。

その効果は2009年、神戸大学の加藤佳子教授らの研究によって示されました。研究によれば、友人との新しい人間関係を築いていく青年期(11歳から20歳までの時期)、アサーション行動がストレス緩衝に有効に働くことがわかっています(※4)。

もちろん、周囲とコミュニケーションを取りながら進めなければいけないのは、青年期だけではありません。成人を迎えたあとも、さまざまな場面で直面します。そのときにアサーションを使うことで、言いたいことが伝わらないなどによるストレスを軽減できるでしょう。

実際の活用は? 研究でも裏付けされるアサーションの効果

アサーションは1982年に開発されて以来、数多くの研究を経て、個人間だけではなく集団内でのコミュニケーションにも活用されるようになりました。そして今や、医療や福祉、教育、産業など、さまざまな分野で広く取り入れられています(※5)。実際の現場での活用を目指し、研究が続けられている分野なのです。

<子育て支援者のスキル向上に役立てる>

2019年に、日本福祉大学の水野節子助教授が行った研究では、アサーションが子育て支援を専門に行う人のコミュニケーションスキルを高めることに効果があるとわかりました(※6)。

この研究では、保健師や保育士などの子育て支援専門職の人を対象に、アサーションを活用した「自己や他者への共感」を重視するコミュニケーションの方法を学び合う研修を実施しています。

アサーションについて理解を深めるためにワークショップなどを行った結果、参加者は望ましい自己表現への学びを深められたそうです。自由記述式の回答からは、参加者の多くが「自分や相手の感情に気づくこと」や「感情の根底にあるニーズに興味をもち、それを言葉で表現すること」を知れたことがわかりました。

相手に共感しながら自己表現することは、多くの人が関わる子育て支援では非常に重要になります。アサーションを活用した研修は、子育て支援専門職の支援力向上にも役立つのです。

<従業員エンゲージメントを高める>

2020年に、大阪体育大学の古家一憲らが行った研究では、アサーティブなコミュニケーションが「従業員エンゲージメント(会社への貢献の意欲を持っている状態)」を高めることがわかりました(※7)。

一般的に、社内にエンゲージメントの高い従業員が多ければ、業務へのモチベーションが高く、離職率は低くなるといわれています。

研究対象は、大学のキャリア支援部。スタッフにアサーティブ・コミュニケーションを理解させ、学生相談支援業務や部内でのコミュニケーションで実践してもらいました。その結果、従業員エンゲージメントが高まることが示されたのです。

この結果から、組織内にアサーションが広がることで、従業員の自律性が促進されるなどして、従業員エンゲージメントが向上すると考察されています。

研究からもわかるように、アサーションは単なるコミュニケーション手法ではありません。個々人のコミュニケーションスキルを向上させることは、望ましい環境や組織を築くことにつながり、結果として従業員エンゲージメントにもつながっていくのです。

アサーション・トレーニングの鍵、DESC法

アサーティブな伝え方を身につけるためには、アサーション・トレーニングを繰り返し行うことが必要です。自分の気持ちをアサーティブに伝えたいとき、「DESC法(デスク法)」と呼ばれる論理の展開法を使うことができます(※8)。

DESC法とは、相手に伝えたいことを「客観的な状況」「主観的な気持ち」「提案」「代案」の4つに分けた上で、順序立てて表現する方法です(※9)。これにより、相手の合理的な意見に対して理解や納得を示し、自己主張しながらも相手を尊重していることを伝えられます。

<D:Describe(描写する)>

状況や問題、相手の言動・行動を描写すること。推測や自分の気持ち・考えなどは含めずに、自分と相手が共有する事実を、具体的かつ客観的に表現する。

< E:Express(表現する)>

Dに対する自分の主観的な気持ちや考えを、アサーティブに表現する。感情的にはならず、正確かつ建設的に表現すること。「あなた」を主語にするYou(ユー)メッセージではなく、「私」を主語にするI(アイ)メッセージを使う。そうすることで、相手は命令されたり責められていたりするようには感じず、選択権が残されていると感じる。

(使用例)

Youメッセージ:「あなた(ユー)は遅刻しないように気をつけて」

Iメッセージ:「遅刻しないでくれると、私(アイ)は安心できるよ」

<S:Specify(提案する)>

相手に望む行動やお願いなどを提案する。具体的で現実的な、小さな変化で済むようなことを明確に述べること。命令口調で話したり、「言わなくてもわかるはず」と言うべきことを言わなかったりすることはしないように。

<C:Choose(選択する、代案を述べる)>

相手が「イエス」「ノー」どちらかを選択した場合に備えて、次にどうするのか選択肢を示す。ノーだった場合、代案を考えておく。

例えば、DESC法を使うと、次のような伝え方をすることができます。

(DESC の例)

シーン例:上司から、明日15時までに提出する資料の作成を頼まれた

D(描写する):「じつは、私もすぐに終わらせなければいけない仕事が2つあります」

E(表現する):「課長が大変な状況にいるのは知っているので、お手伝いしたいところなのですが」

S(提案する):「最短で、明日の午後からでしたら対応することができます。それでもよろしいでしょうか?」

C(選択する、代案を述べる):「もしくは、他に対応できる者を探しましょうか」

このように自分のことだけを考えるのではなく、相手の目線に立ちながら話すことで、建設的なコミュニケーションが可能になるのです。

アサーションは、相手を操作したり無理やり「YES」を引き出したりするための伝え方ではないということも注意ポイントですね。

そうですね。相手と対等な目線で、その場にふさわしい形で、自分の気持ちを率直に話す。アサーティブな伝え方をすることは、よりよい人間関係をつくることにもつながっていくのだと思いました。

感情や状況を記録し、自己分析

コミュニケーションがうまくいかずにストレスを抱えている人は、アプリを使って自己分析してみませんか?

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参考文献

※1:平木典子(2020)、いま、問われている自分らしい選択

※2:関口奈保美ら(2011)、大学生におけるアサーションと対人ストレスの関連性:自己表現の 3 タイプに着目して

※3:高橋 憲生ら(2020)、対話テキスト中の自己主張及び感情の分析に基づくソーシャルスタイル推定

※4:加藤佳子ら(2009)、家族成員の相互関係と児童の自尊感情との関係

※5:平木典子(2020)、協働のためのアサーション・トレーニング

※6:水野節子ら(2019)、「共感でつながるアサーション」による子育て支援専門職の連携機能の開発

※7:古屋一憲(2020)、アサーティブ・コミュニケーションが従業員エンゲージメントを高める効果

※8:村山眞理(2016)、リーダーに必須の英語コミュニケーション力醸成カリキュラムの構築-言語教育とアクティブ・ラーニング-

※9:鈴木教夫、アサーション・トレーニングの理論と実際