職場や家庭での人間関係を良好にしていくためにも必要なのが、怒りの感情を適切に対処する「アンガーマネージメント」のスキル。自分の怒り気づき、考え、適切に鎮めることができれば、周囲の人とのトラブルも自分自身のストレスも軽減させることができます。

今回は怒りの対処法の1つである「RAIN法」と、怒りを受け止め適切に表現するための「DECS法」についてご紹介します。

この所、ちょっとしたことにイライラしたり、怒ってしまうことが多いんですよね。朝の満員電車や、会社での同僚や部下の仕事ぶり、夫との家事や育児の方針のずれ・・・
どうしたらイライラしないで、日々穏やかな気持ちでいられるのでしょうか。

「怒り」の感情は決して悪いものではないですよ。だから、無くさないといけないわけではないんです。でも、うまくコントロールできないと人間関係にも影響を与えやすいですね。
今回は、怒りやイライラに振り回されないアンガーマネジメント「怒りへの対処法」について学んでいきましょう。

怒りについて考える

「怒り」「悲しみ」などネガティブと言われる感情は、無くしたい、抑え込みたいと考えてしまいがちです。

しかし、それぞれの感情は意味があるからこそ私たちの中に存在します。

すべての感情には意味があります。だから「怒り」も悪いものでも、無くさないといけないものでもありません。出してはいけないものでもありません。一つ一つの感情は「私たちに大切なことを教えてくれるサイン」なのです。

事例:「怒り」が私達に伝えるサイン

怒りの持つ意味合いは人それぞれによって変化しますが、いくつかの事例を通して考えてみましょう。

  

部下がプレゼン資料を作っていると思っていたが、全く手をつけていなかった。

資格試験で合格すると自分に期待していたのに、落ちてしまった。

  

この事例での「怒り」は、私たちが「残念な気持ちであること」を教えてくれているのかもしれません。自分や他人への「期待」に対して「現実」はズレがあったとき、その満たされない気持ちが「怒り」として現れているのです。

  

ネットショッピングをしたら、購入したものとは違う商品が届いてしまった。

朝から会議なので早めに出発したのに、電車が遅延していている。

  

この事例での「怒り」は、私たちが「困っている状態であること」を教えてくれているのかもしれません。予期せぬことが起きたことで困惑している状態が「怒り」として現れているのです。

このように、期待と現実にズレがあったあときや、困りごとを抱えているときストレスを感じているときに、人は「怒り」を感じやすいです。

怒りは強い感情なので、油断すると巻き込まれてしまいます。怒りを感じた時には、「この怒りは私たちに何を教えてくれているのだろうか?」とサインを意識することで、少し「怒り」との距離が取れて感情に振り回されづらくなります。

しかし、それだけで怒りに対処することはなかなか大変です。




怒りへの対処法「RAIN」とは?

「RAIN」は瞑想教師であるミシェル・マクドナルドが開発した対処法で、「怒り」だけではなく、強いストレスを感じたときなどにも有効な方法と言われています。

「RAIN」によって、感情をコントロールし、気持ちが落ち着き、冷静に物事に対応できるようになります。

「RAIN」は以下の4つのステップに分かれています。

   

  1.Recognize(怒りに気づく)

  2.Accept(怒りを受け入れる)

  3.Investigate(怒りを調査する)

  4.Non-Identification(怒りと自分を分ける)

  


怒りをコントロールするためには、まずは自分の「怒り」に気づかないといけません。先程も述べた通り、人はネガティブな感情ほど、「無かったことにしよう」「抑え込もう」としてしまいます。

しかし、その対処法は効果的ではありません。

「怒り」を抑え込み我慢することは、大きなエネルギーを使用するからです。我慢することに疲れてしまったり、抑え込んだ代わりに身体に不調が出てしまったりします。
また、積もり積もって感情が増幅すると、誰かと喧嘩する、大きな声を出すなど「怒り」のままに行動してしまう場合もあります。

怒りとうまく付き合うためにも「RAIN」を上手に取り入れていきましょう。


1.Recognize:怒りに気づく

まずは自分の「怒り」の感情に気づくことが大切です。

怒りを感じたときは、何かしら身体反応が変化する方が多いです。例えば、呼吸が浅くなる、心臓がドキドキする、体が熱くなる、体に力が入る、汗をかくなど。このような体の変化に気づいたら、それは怒りを感じている証拠かもしれません。

自分の感情に気づきにくい方はこれらの体のサインを手掛かりに、「自分は怒っている」「自分はイライラしている」と自分の気持ちに気づく練習をしましょう。


2.Accept:怒りを受け入れる

「怒り」は私たちに大切なことを教えてくれるサインです。

「怒ってはダメ」「怒りは悪いもの」と考えてしまいやすいですが、怒り自体は良し悪しを判断できるものではありません。

「怒り」の表出の仕方については「適切なもの・適切でないもの」があると思います。例えば、物を壊す、暴力を振るう等は表出の仕方としては適切ではないですね。

しかし、怒り自体は意味があるから存在しています。

怒りそのものについては良い悪いと判断せず、「私は怒っていない」「怒りを我慢しろ!」と目を背けたり否認したりしないことがポイントです。「自分は怒りを感じている」と事実をあるがまま受け入れましょう。


3.Investigate:怒りの原因と結果を調査する

怒りの感情をなぜ抱いているのか、また怒りによって自分にどのような影響があるのかを客観的に考えましょう。

例)「相手(部下)に仕事を進めてくれていることを期待していたのに、現実は全く進んでいなかった」


この場面においては「期待はずれだったことに困っているから、怒りの感情を感じるのでは?」という仮説が立つかもしれません。

その後、怒りの影響を調査します。

怒りによって、様々な身体反応が出ているかもしれません。呼吸が早くなっていないか、心臓がドキドキしていないか、顔が熱くなっっていないかなど、身体への影響をチェックします。


また、怒りを感じた時どんなことを考えていたのか、そのとき怒り以外の感情もあったのか自分はどんな行動をとっていたのかと、一つずつ調査します。

上の事例では、「自分が若い頃は仕事一筋だったのに」と部下と自分とを比較して考えていたかもしれません。
怒りと同時に「悲しみ」の感情も感じたり、「部下を睨みつける」「貧乏ゆすりをする」など、何か行動を起こしたりしていたかもしれません。

このような自分の怒りの原因や影響の結果に気がつきましょう。

<怒りの調査の例>

  ◾事象
   相手(部下)に仕事を進めてくれていることを期待していたのに、
   現実は全く進んでいなかったことに苛立っている

  ◾仮設
   期待はずれだったことに困っており、怒っているのでは

  ◾反応
   1.呼吸が早くなっている
   2.身体に力が入っている
   3.貧乏ゆすりをしている

  ◾その他の気づき
   ・昔の自分と部下を比較している
   ・部下の行いに対して「悲しい」感情も抱いている



4.Non-Identification :怒りと自分を分ける

怒りに巻き込まれている時は、「怒り=自分」と両者を同一視してしまっている状態です。

この状態だと、感情に振り回されてしまい、怒りのコントロールができず、怒りのままに行動しやすくなります。

しかし、「怒り」と自分は全く別の存在です。すべての感情は一時的なものです。時に強くなり、特に弱くなります。そしてやがて小さく消えていきます。

つまり「怒り=自分」ではなく、「怒り=私たちの中に一時的に存在する感情」なのです。

私たちは、怒っているときもあれば、喜んでいるとき、泣いているときもありますよね。
ですから、「自分はいま怒っているんだな」「こんな理由があるから怒ってしまったんだな」と、怒りと自分とを分けて捉えて、観察するようにしましょう。

「怒り」と距離を取るためには、頭の中で考えずに紙に書き出すなど、目で見えるように「外在化」することもオススメです。





効果的でない「怒り」をしてしまう私達

間違った「怒り」の表出方法が与える影響

怒りと距離が取れて冷静になったとしても、現実にはまだ困りごとが存在しており解決しなくてはいけない場合もあります。
困りごとが、自分ひとりで解決できる場合なら良いですが、どうしても他人に何かを伝えないといけない場合もあるかと思います。

その際、冷静になれず、怒りのままに伝えてしまうと、人間関係が悪化したり、問題がよりややこしくなったり、解決しにくくなることさえあります。

繰り返しですが、怒りの感情自体に「良い・悪い」はありません。

しかし、怒りの表出方法には「適切なもの・適切でないもの」があります。

例えば、相手を殴る、罵声を浴びせる、大きい声を出すなど怒りを「攻撃」で表現すると人間関係が悪化したり、人を傷つけてしまうことが多いです。

また、怒りを「我慢」で表出すると、自分の健康に悪影響があります。例えば、心臓などの循環器疾患の危険因子になると言われています。


「怒り」で、人の行動を変えることは難しい

もしかしたら、相手のためを思って、相手の行動を変えるために、怒りを直接的に表現している方もいらっしゃるかもしれません。
仕事に対してなかなかやる気を見せない部下のために、資料作成が納期ギリギリになってしまう部下のために、部下の今後の成長を願って指導している場合も多いと思います。

しかし、「怒り」で人の行動を変えることは難しいです。

なぜかというと、人は心から納得したときに自分の行動を変えるからです

誰かから言われたことを始めから素直に受け止め、素直に実行する人は少ないです。特に、上司や教師など権威がある人から怒られた場合、表面的な変化や一時的な変化に留まる場合が多くなります。

人の行動は一時的に変わることはありますが、心から納得していない場合は長く続きません。もしくは上司や教師の前だけなど、特定の場面でのみ行動を変化させるようになります。

もしも部下が変わってくれることを期待し、部下の将来を考えて指導するなら、一時的な変化ではなく、長期的な変化を願っていると思います。それでしたら、「怒り」をそのまま表現することはおすすめできません。


怒りは連鎖し、周囲のパフォーマンスを下げる。

怒りは「連鎖する」という性質があります。誰かに「怒り」をぶつけると、それを受け取った人は、別の人に「怒り」を向けやすくなります。

例えば、部長が係長に「怒り」を向け、係長が主任に「怒り」を向け、主任が部下に「怒り」を向けといった様子です。

怒りの連鎖により、職場全体の雰囲気が悪くなることも多いので、やはり怒りを人に向けるのはあまり良い方法ではないかと思います。

それでは、「怒り」を感じた時に、人間関係をこじらせない、適切な表現方法とはどのようなものでしょうか?

今回は、 怒りのアサーションと呼ばれるDESC法をご紹介します。





怒りのアサーション「DESC法」とは?

怒りのアサーションとは、Bower(※1)に よ っ て 発 案 さ れ た怒りの適切な表出方法です。

アサーションとは、「自分も相手も大切にするコミュニケーション技法」のことです。自分も相手も大切にした上で、自分の気持ちや考えを伝え、相手の気持ちや考えもしっかりと受け止めます。

DESC法は、自分の主張だけでなく、相手の主張も尊重するコミュニケーションで、4つのステップから成り立ちます。

  

  1.Describe  客観的に状況を描写する

  2.Explain  自分の気持ちや考えをアイメッセージで伝える

  3.Suggest  相手に望む行動や解決策を提案する

  4.Choose    相手に選んでもらう

  

この4つのステップに沿って、自分の考えを適切に伝えるようにしましょう。



1.Describe:客観的に状況を描写する

まずは、第三者から見ても明らかな客観的な状況・事実を伝えます。事実としてお互いが認識していることを共有しましょう。

  

 例)「会議の資料は、金曜日が締め切りだったよね」

  



2.Explain :自分の気持ちや考えをアイメッセージで伝える

次に、相手に伝えたい気持ちや考えを、自分を主語にしたアイメッセージで伝えます。「早く提出して」ですと、相手が主語になってしまいます。必ずアイメッセージで伝えましょう。

  

 例)「会議の資料の提出が遅れていて、(私は)困っています」

  




3.Suggest :相手に望む行動や解決策を提案する

ポイントは、具体的かつ実現可能なものを提案することです。相手に望む行動や解決策を、なるべく細かく、現実的なものから提案します。

  

 例)「用意できてないなら手伝うし、時間が足りないなら期限を伸ばします」

  




4.Choose :相手に選んでもらう

伝えた解決策を強制せず、いくつかの選択肢から相手に選んでもらったり、他の選択肢はないか相手に問いかけたりします。最後の決定は相手にしてもらいましょう。

  

 例)「用意を手伝うのと、期限を延期するのでは、どちらがいいですか?」

  



DESC法に沿った表現方法で、自分の気持ちや意見を伝え、相手の意見も引き出す、双方を尊重したコミュニケーションが取りやすくなります。

毎回4つの要素を全て入れないといけないわけではありません。その時の会話に応じて、組み合わせて使用しても良いでしょう。DESC法を意識しすることで、お互いを尊重したコミュニケーションへと変化していきます。

特に「怒り」などネガティブと言われる感情を感じながらコミュニケーションを取る必要がある際は、ぜひ参考にしてください。





なるほど。怒ることを無理にやめようとしたり、怒ってしまった自分を責めたりするのではなくて、上手に付き合っていくことが大切なんですね。

怒りを自分でコントロールができるようになると、人間関係のストレスやトラブルも軽減できますよ。
まずは自分の「怒り」に気づき、目を向けることから始めましょう。

<参考文献>

※1 「Asserting Yourself-Updated Edition」https://www.amazon.co.jp/Asserting-Yourself-Updated-Practical-Positive-Change/dp/0738209716

水島広子(2014)大人のための「困った感情」のトリセツ

関屋 裕希(2018)感情の問題地図~「で、どう整える?」ストレスだらけ、モヤモヤばかりの仕事の心理

エマ・ウィリアムズ(2012)アンガーコントロールトレーニング -怒りを上手に抑えるためのステップガイド