石上先生、今回は「セルフコンパッション」についてのお話ですね。直訳すると、「自分への慈悲」ですけど、チーム力を向上することにつながるのでしょうか?

「セルフコンパッション」を意識すること、個々の共感性やモチベーションが高まり、それがチーム力を向上させることができると言われています。今回は、そのメカニズムやトレーニング方法について、解説しますね。

みなさんはチーム力をもっと向上させたいと思いますか?

チームメンバーみんなの共感性が高く、周囲を思いやれるような環境であれば、チーム一丸となって目標に向かっていけると思うかもしれません。そんな理想的な環境を作り出すことは難しいと感じますか?

現在アメリカで注目されている「セルフコンパッション」を高めることで、それぞれの共感性やモチベーションが高まり、チーム力を向上させることができると言われています。

今回はセルフコンパッションを鍛えて職場のチーム力を向上させる方法についてご紹介します。

セルフコンパッションとは?

セルフコンパッションとは、「自分を思いやる力」のことです。

コンパッションには「思いやり」という意味がありますが、そのコンパッションに「セルフ」が付くことで、自分を思いやる力、自分を許す力、自分に優しくする力を表します。

自分に優しくすると聞くと、「自分を甘やかすことで、だらけてしまうのでは?」と心配するかもしれません。

しかし、セルフコンパッションは自分を甘やかすこととは区別されています。甘やかしとは、自分の悪い面には目を瞑り、悪い面をそのままにして改善策を考えないことを意味します。一方でセルフコンパッションは、自分の良い面も悪い面も同じようにありのまま受け入れます

また、セルフコンパッションは自尊心とも異なる力です。自尊心とは、自分を好ましく思う肯定的な態度のことです。自尊心は、自分と他者を比較したり、自分の好ましいところを探すことで他人を低く見てしまう場合があります。一方でセルフコンパッションは、比較や評価をしません。あるがままを受け入れるものです。

リーダーに求められるセルフコンパッション

リーダーに求められるセルフコンパッション

現在のリーダーにはEI(Emotional Intelligence)スキルが求められているといわれます。EIスキルとは、自己や他者の感情を知覚したり、自分の感情をコントロールする知能のことです。

これらの知能はメンバーを理解し、チームをまとめ、ゴールを達成するために重要なものです。そして、EIスキルのキーとなるのが「共感性」です。そして、共感性とセルフコンパッションには深い繋がりがあるのです。

セルフコンパッションが高い人には以下の特徴があると言われています。

  • 自分の失敗や誤りに対して批評せず、寛容である
  • 人は誰でも失敗することを受け入れる
  • 脳の思いやり回路が活性化する
  • 他者にも寛容である

これはいずれも、共感性の高さを示すものです。つまり、セルフコンパッションを高めることで他者への「共感性」を高めることができるのです。

また、上記に加えて、セルフコンパッションが高い人には以下のような特徴もあります。

  • 失敗や目標が未達のときに、マイナスの感情に支配されない
  • 自己改善のモチベーションが高い
  • 自分に偽りがない(オーセンティシティ)を示す
  • 幸福度が高まる
  • 不安や抑うつ、怒りが和らぐ
  • ストレスが下がる
  • 逆境力(レジリエンス)が高まる
  • モチベーションがあがる

オーセンティシティとは、本当の自分を押さえ込んで生きたり、自分をよく見せよう、悪く見せようと偽ったりしないことです。あるがままの自分で生きることです。

マーストリヒト大学とテキサス大学のセルフコンパッションの研究(※1)では、3週間の訓練でマインドフルネスレベルと楽観性、自己効力感などが向上したそうです。

また、筑波大学のセルフコンパッションの研究(※2)では、ウェルビーングとの関係が示唆されています。

別のセルフコンパッションの研究(※3)では、セルフコンパッションは失敗した時に、自分にとって助けとなるような適応的な信念(考え)を促進することが分かりました。

また、セルフコンパッション研究の第一人者であるネフ・クリスティンの論文がこちらのサイトにまとまっていますので興味がある方はご参照ください。

セルフコンパッションは、感情コントロールや自己を成長させるモチベーションを高め、リーダーシップを発揮する上で大切な能力を向上させるため、キャリアを成功させる鍵となる能力であると考えられます。(※4)

そして、リーダー自らが他者への共感性を高めることで人間関係、チームの力、個人のウェルビーイングが高められます。

セルフコンパッションが高いと、自己改善へのモチベーションが高くなる

自己改善するためには、まずは現状を客観的に把握しないといけません。現状をしっかりと見つめることで、適切な対処法を見つけることができます。

しかし、人間にはネガティブなものを回避する傾向があります。特に完璧主義だったり、自分に自信がない場合はよりその傾向は強くなります。例えば、理想と現実が違うことで落ち込んだり、自己批判してしまう場合に、無意識的にそのことから目をそむけてしまうというようなことが起こります。

その際にセルフコンパッションを高めると、過度な自己批判をしなくなります。過度な自己批判をしなくなると自分が傷つく心配がないので、ネガティブな面もポジティブな面も同様に目を向けることができるようになるのです。

つまり、自分の弱みに向き合うことで、自分にとって最良の選択肢を選び、モチベーション高く自己改善していくことが可能となります。

セルフコンパッションが低くなる理由

私たちは子供の頃、周囲の人の声かけを自分の内なる声として取り入れて成長します。自分の育ってきた環境や周囲からの声かけで、自分を思いやる声を内在化した方もいれば、自分に厳しくする声を内在化した方もいると思います。周囲からの声かけや内在化した声によって、セルフコンパッションは育ちます

周囲からの思いやりのある声かけがなくとも、自分で自分に思いやりのある声かけをすることで、セルフコンパッションを高めてきた方もいるかもしれません。

しかし、そうではない場合、セルフコンパッションがうまく育たず、自己否定的になったり、自責的になりやすくなります。

セルフコンパッションが低いと、「自分は悪い人間だから、罰せられるべきだ」、「自分は楽をしちゃいけない」「自分は幸せになっちゃいけない」と、自ら自分を辛い方向に持っていきがちになります。

しかし、セルフコンパッションが低いからと言って嘆く必要はありません。セルフコンパッションは後からでも高めることができます。

セルフコンパッションを理解する3つのポイント

セッルフコンパッションを理解する3つのポイント

ネフ・クリスティン先生によると、セルフコンパッションには3つのポイントがあります。

1.マインドフルネスである

マインドフルネスであること、つまり自分に対して良い悪いと評価せず、あるがまま受け止めることです。自分の性格や特徴、過去の失敗などを自己否定せず、あるがまま事実として受け入れます。

2.自分に対する思いやりを持つ

自分に対しての厳しい声かけをするのではなく、思いやりを持った声かけをしていくことです。例えば、自分にとって大切な人に声をかけるつもりで、優しく労いの言葉をかけます。

3.人類の共通性を意識する

人間なら誰でも失敗します。誰でも欠点があります。誰でもストレスや困難、嫌なことにぶつかります。強いストレスを感じているとき、こんなに辛いのは世界中で自分だけのような感覚に陥ります。

しかし、ほぼ全ての悩みは過去に経験した人がいます。「人類のどこかに仲間がいる…」「誰かもどこかで悩んでいる」と、人類の共通性を意識することがポイントになります。

セルフコンパッションを高める方法

それではセルフコンパッションを高めるためにどのような方法があるかご紹介します。

1. ひとりごとを変えてみる

みなさん、脳内だったり、実際の独り言だったり、自分に向けて声かけをしていると思います。半ば無意識にやっていることもあれば、意識的にやっていることもあると思います。その声かけを変えていきましょう。

まずは、自分への「ひとりごと」が批判的になっているとき、そのことにリアルタイムで気づくことが大切です。

「ああ、また失敗するなんてダメだなあ」「なんでもっとちゃんと出来ないんだ!」など、批判的なひとりごとをつぶやいていることはないでしょうか。自己批判的なひとりごとに気づけないと、自己批判の影響を受けやすく、ネガティブな感情に巻き込まれやすくなります。

気付いたところで、自己批判的な独り言を、先ほどの3つのポイントを意識し、セルフコンパッション的なひとりごとに変えていきます

いま、「自分を責める独り言を言ったな」と、良し悪し判断せずマインドフルに気づき、「この状況ならそんな独り言が出てきても当然だよ」「ちょっと深呼吸しようか」と、共感的で思いやりのある声かけをして、「誰でも失敗するときはあるよ」と人類の共通性を意識します。

2. 自分に手紙を書いてみる

まず、優しくて思いやりのある理想の人物を思い描きます。過去の偉人でも、架空の人物でも、アニメのキャラクターでも良いです。

次に、自分の欠点や失敗について考えてみます。なるべく、自分の感情を回避せず、大げさに書くことなく、事実を書きます

そして、先ほどの優しくて思いやりのある人物から、自分自身に宛てた手紙を書きます。自分の欠点や失敗について、その人物は何て言うのでしょうか。

手紙を書くときに、優しさや思いやりをたっぷりと込めるように意識します。

セルフコンパッションを高めると他人へのコンパッションも高くなる

他人へのコンパッションは、セルフコンパッションと密接に関係しています。

例えば、自分も他人も許せないとき、自分を許せるようになると、他人を許せるようになることもあります。自分にコンパッションを向けることで、同じように他者についても理解や受容ができるようになります。自分の欠点やミスを受け入れることで、他者の欠点やミスにも寛容になれます。

思いやりを持って自分に接することは他者に思いやりを持って接するための良い練習になるのです。

さらに他者への思いやりは自分自身に対する思いやりを強化する相互作用があります。

職場でそれぞれがセルフコンパッションを高めることで、良い循環が起き、職場環境も変化していきます。

自分に思いやりのある声かけを続けることで、コンパッションは外側に向き始めるのです。

他人へのコンパッションを高める方法:慈悲の瞑想

他人へのコンパッションを高める方法:慈悲の瞑想

最後に、他人へのコンパッションを高めるために有効と言われている慈悲の瞑想を紹介します。

仏教の伝統的な瞑想方法で、ヴィッパサナー瞑想の一種と言われています。慈悲の瞑想は自他の幸せを願う瞑想法です。

実は、心理士の私がはじめて慈悲の瞑想と出会ったとき、慈悲の瞑想は、宗教色が強い瞑想なのかなと、抵抗を感じました。しかし、エビデンスとなるさまざまな研究結果の効果が高いことから、実践を始めてみました。

例えば、リチャード・デビッドソンの研究(※5)では、2週間毎日30分の慈悲の瞑想を続けることで、脳の島部が活性化し、共感性が高まったという研究結果があります。

他にも、

  • 他人へのマイナス感情の抑制
  • ストレス軽減
  • ポジティブな感情の育成

などの効果があると言われています。

慈悲の瞑想のやり方

※ 診療内科などで主治医の先生がいる場合は、実践する前に医師に相談してみましょう。

1.リラックスして座る

まずはリラックスした姿勢を取ります。なるべく静かな環境が良いでしょう。

2.ゆったりした呼吸を続ける

無理に深呼吸などせず、ゆったりした呼吸を続けましょう。

3.自分への慈悲

下記のセリフを自分自身に向け唱えていきます。

「私が幸せでありますように」
「私の悩みや苦しみが消えますように」
「私が穏やかでありますように」
「私の願いが叶いますように」
「私に他者に対する慈しみの気持ちが生まれますように」

言葉遣いに違和感がある場合は、自分にとってしっくりくるフレーズに置き換えても大丈夫です。

4.他人への慈悲

次のステップで先ほどのセリフの「私」という主語を他人に変えていきます
日本テーラワーダ仏教協会によると、自分から見て

①親しい存在
②生きとし生けるもの
③私の嫌いな存在
④私を嫌っている存在

慈悲を向ける対象を変えて唱えていきます。

「親しい存在」は表現が固いと感じれば、「私に大切な人」と置き換えても良いですし、「家族」「友人」と特定の誰かを対象にし、自分がコンパッションを向けたいなと思う相手から実践することもできます

「生きとし生きるもの」と言われても漠然としていて実感できない場合もあると思います。とりあえず、そのまま唱えてみるという方法もあります。

私ははじめは「生きとし生きるもの」ではなく、「すべての猫と犬が」と好きな動物から始めました。慣れてきたら徐々に対象を拡大していく方法もおすすめです。

最後に:コンパッションは甘やかすことではない

他者にコンパッションを向けることは、相手を甘やかすことではありません。

すべての生命の「命」そのものに対して、平等に慈しみを持つことです。ダライ・ラマはコンパッションについて「幸せになる方法」と紹介しています。(※6)

まずは、自分自身にコンパッションを向け、少しずつ対象を広げていきましょう。

チームの話から、生命への慈しみの話まで、かなり壮大なお話でした。でも、実は地続きにあるテーマかもしれませんね。最近話題の「サステナビリティ」にも通じます。

コンパッションを高める実践は、慣れるまで時間がかかる場合もあります。また、一人でなかなかうまく出来ない場合や、体調が変化した場合は、心理カウンセラーなど専門家と一緒に取り組む方法もおすすめです。

参考文献

※1 Smeets, Elke; Neff, Kristin; Alberts, Hugo; Peters, Madelon(2014), Meeting Suffering With Kindness: Effects of a Brief Self‐Compassion Intervention for Female College Students

※2 水野 雅之, 菅原 大地, 千島 雄太(2017), セルフ・コンパッションおよび自尊感情とウェルビーイングの関連

※3 宮川裕基, 新谷優, 谷口淳一(2019), When Life Gives You Lemons, Make Lemonade: Self-Compassion Increases Adaptive Beliefs About Failure

※4 Serena Chen(2018), Give Yourself a Break: The Power of Self-Compassion

※5 Study Shows Compassion Meditation Changes the Brain

※6 思いやりと個人 “COMPASSION AND THE INDIVIDUAL”