睡眠を削って仕事をする、というのは社会人としての最終手段の一つ。3時間睡眠で過ごしたというナポレオンのようなショートスリーパーに、憧れを持っている人も少なくないかもしれません。

しかし、睡眠不足には健康面だけでなく、仕事の質という点でも様々な問題が出てきます。睡眠不足と仕事の関係についての3つの研究をご紹介します。

1. 睡眠不足は脳のワーキングメモリの容量を減らす

カリフォルニア大学、ミシガン大学、アメリカ国立神経障害・脳卒中研究所の研究者チームが、2019年4月に、睡眠不足が脳のワーキングメモリを減らすことに関連するという研究発表をしています。(※1)

ワーキングメモリーは情報を一時的に保ちながら作業を行う能力で、作業記憶とも呼ばれます。状況を評価したり、言葉を使ったり、意思決定するなど、作業全般をするときに用いられる、仕事をする上でなくてはならない能力です。たとえば、電話番号を一瞬覚えて転記したり、複雑な計算を頭で行うなど、人がさまざまな作業をするときに用いられます。

これまでもワーキングメモリーは、高齢になったり、気分の落ち込んだりすると、その容量が低下し、悪影響を受けると言われていました。この研究ではそうした要因とは別に、睡眠不足や睡眠の質の悪さが、ワーキングメモリーのパフォーマンスを下げることを示しました。

つまり、睡眠不足は仕事で行う作業の効率を下げる原因になるのです。

2.睡眠をしないと、効率的に記憶されない。

仕事をする上で、記憶も大事なことです。これも、睡眠と大きな関係があります。

私達の記憶は、脳内の2つ部分「海馬」と「大脳皮質」に保持されます。「海馬」は短期の記憶、「大脳皮質」は長期で大量の記憶に使われるものです。

海馬は短期記憶を蓄える

たとえば、記憶した内容はまず「海馬」に保存され、その後、「大脳皮質」に統合・移行されます。この移行処理はこれまで、時間と睡眠を経てゆっくりと行われると言われていました。

テュービンゲン大学やプリンストン大学などが2019年4月に発表した研究では、fMRI(磁気共鳴画像)を使って、この「記憶の移行」が、もっと急速に起きることを突き止めました。睡眠を介さなくても、繰り返し学習する中で、短時間の間に記憶は大脳皮質にも移されていくのです。

では、睡眠は記憶するのに必要ないのか?そんなことはありません。研究によると、睡眠の役割は二つ。

一つは、「記憶の移行」を安定させ定着を長続きさせること。もう一つは、新しい記憶のために「海馬」を解放させることです。「海馬」の解放がないと、古い情報に新しい情報が上書きされ、学んだ内容がリセットさせる可能性があるとのことです。

つまり、睡眠を取らないで学習することは効率的ではないのです。

3.睡眠不足は人を社会的に孤立させる

仕事では、実は作業効率や記憶力以上に、「社会的である」ことが大事かもしれません。要は、まわりとうまくやる、ということです。

最後の研究は、まさに社会性と睡眠にまつわる、カリフォルニア大学バークレー校の研究の研究(※3)です。

マシュー・ウォーカー教授は、「睡眠不足は、人を社会的なのけ者にしてしまう」と警鐘をならします。

研究では、健康な成人を2グループに分け、片方のグループを一晩中起きておくようにさせます。

彼らに対して、無表情の人物が近づいてくるビデオを見せ、「近すぎる」と感じたところでビデオを停止させる実験を行いました。

すると、睡眠不足のグループは、そうでないグループよりも、人を18〜60%も遠い場所で停止させる傾向にあったのです。「私に近づかないで!」とでも言わんばかりですね。

更に、その時に脳をスキャンしたところ、「心の理論(Theory of Mind)」と呼ばれる、人の社会的な関係を司る部分の活動が低下していることが分かりました。

この研究は、睡眠障害が、社会的状況を判断する力を奪い、個人が社会から離脱させる原因となる可能性を示唆しています。

研究は更に続きます。

次の実験では、そうした被験者たちのビデオを、1000人以上の観察者に見せ「彼らがどれだけ寂しそうに見えるか。また、自分なら彼らと交流をしたいと思うか」という点を評価してもらいました。すると、観察者たちは睡眠不足の状態の人たちの方を、より孤独そうだと感じ、さらに交流したくないと評価したのです。

更に、その孤立感は被験者だけでなく、なんと観察者自身にも伝染するという実験結果まで出ました。睡眠不足は本人を孤立させるだけでなく、周囲にまで、その孤独感を伝染させるのです。

つまり、睡眠不足は、周りとうまくいかなくなる原因になりえるのです。マシュー・ウォーカー教授は、「ポジティブに言えば、きちんと睡眠を取ることで、社会的で自信を持ち、人を惹きつけることができる」とも話しています(※4)。

共同研究者のエティ・ベン・サイモン氏による講演。孤独と睡眠不足の関係性の研究について。

いかがでしたでしょうか。 3つの研究によると、睡眠不足は仕事効率を下げ、記憶の定着を阻み、社会性の低下までを巻き起こすのです。

睡眠時間を短くすることで、できる仕事量が増える!と考えてしまいがちですが、その犠牲は少なくないことを、これらの研究は示しています。大事な仕事が待っているときこそ、きちんとした睡眠を取るようにしていきたいですね。

※1
Xie, W., Berry, A., Lustig, C., Deldin, P., & Zhang, W. (n.d.). Poor Sleep Quality and Compromised Visual Working Memory Capacity. Journal of the International Neuropsychological Society, 1-12. doi:10.1017/S1355617719000183
※2
Rehearsal initiates systems memory consolidation, sleep makes it last
L. Himmer, M. Schönauer, D. P. J. Heib, M. Schabus and S. Gais
https://advances.sciencemag.org/content/5/4/eaav1695
※3
Sleep loss causes social withdrawal and loneliness
Eti Ben Simon & Matthew P. Walker
https://www.nature.com/articles/s41467-018-05377-0
※4
Sleep loss can turn us into social outcasts
https://www.medicalnewstoday.com/articles/324678.php