みなさんは睡眠に悩んでいませんか? なかなか眠れない、寝てもすぐに目が覚めてしまう、朝起きた時に疲れが取れていないなど、睡眠にまつわる悩みはさまざまあります。

今回は睡眠の質を高める方法のひとつ「ヨガ・ニドラ (Yoga Nidra)」についてご紹介します。

ヨガ・ニドラ!なんだか、怪獣の名前のようですが、睡眠の質を高める方法なんですね。

ヨガ・ニドラは、睡眠の質を高め、疲労回復効果もあると言われています。ヨガという名前がついていますが、別に難しいポーズを取る必要はありません。ぜひ、気軽に試してみてください。

減少し続ける日本人の睡眠時間。何時間寝るべきか

日本人の平均睡眠時間は7時間23分と、減り続けている。

ストレスの多い現代社会において、睡眠不足に悩む方が多くなっています。

朝早くから夜遅くまで仕事をしたり、長時間通勤だったり、スマートフォンやパソコンなどのブルーライトや、コーヒーや緑茶などのカフェイン、アルコール、運動不足、緊張や不安、情報量の多さなど、私たちの日常生活には睡眠不足になる要素がたくさん潜んでいます

1976年と比較し、日本人の睡眠時間は減少しています。先進諸国と比較しても日本人の睡眠時間はとても短いというデータがあります。

大和総研グループ経済調査部が発表した「総務省「社会生活基本調査」には、「働いている人々(有業者)の総平均睡眠時間は、1976年の8時間1分から2016年には7時間23分にまで38分も減少した。他国と比べても睡眠時間は短く、日本人は恒常的な睡眠不足に陥っている」との報告があります。(※1)

それでは、私たちにはどれくらいの睡眠時間が必要なのでしょうか?

国立精神・神経医療研究センター (NCNP)が発表した「潜在的睡眠不足」に関するプレスリリースには、「必要睡眠時間には個人差がみられ、もっとも短い人で7時間17分、長い人で9時間15分と、約2時間の違いがみられました。」という説明があります。(※2)

日本人の平均睡眠時間が7時間23分ということは、この報告が示す「7時間17分」に肉薄しており、日本人の多くの睡眠時間が不足している可能性が示唆されます。

睡眠の量と質は、疲労回復・感情のコントロール、身体と精神の疾患など、私達にさまざまな影響を与える

睡眠が感情のコントロールに影響を及ぼす。

睡眠はなぜ必要なのでしょうか。

睡眠には疲労回復効果があります。身体的な疲労だけではなく、脳の疲労も睡眠によって回復します。

さらに、睡眠は感情のコントロールにも影響を与えることが分かってきています。

国立精神・神経医療研究センターの研究によると、短期間の睡眠不足でも、感情の不安定さやうつ状態になりやすいことが分かりました。また、長期間にわたり睡眠不足を続けることでうつ病や不安障害の発症につながる危険性も指摘されています。(※3)

同研究では、感情を伴う表情画像を見た時の脳活動の変化を機能的MRIで測定しています。その結果、睡眠不足時にはネガティブな刺激に対して反応しやすくなるという結果が出ています。

仕事中におこるネガティブな刺激の例として、上司や同僚などのネガティブな表情があげられます。睡眠不足だと、こうしたことに過敏に反応しやすくなるのです。

健康日本21推進全国連絡協議会の作成した「健康づくりのための睡眠指針 2014」では、慢性的な睡眠不足の影響として、

  • 肥満、循環器疾患、生活習慣病を引き起こす原因になる
  • こころの健康と関わりがある
  • 日中の作業効率の低下やヒューマンエラーの誘発と関係がある

など、わかりやすくまとめられています。(※4)

睡眠では、「時間」だけではなく「」も重要です。睡眠時間が十分でも、睡眠の質が落ちている場合、しっかりと休めていない可能性があります。寝たはずなのに、朝起きても疲れが取れていない場合、睡眠の質について見直す必要があります。

睡眠の質を高めるためには、毎日規則正しい生活を送ることが重要です。しかし、仕事が忙しいと睡眠リズムも不規則になりがち。シフト制勤務や夜間勤務などの勤務体制の方は、睡眠リズムを自分でコントロールすることが難しい場合もあります。そこでおすすめしたいのが、今回のテーマとして取り上げている「ヨガ・ニドラ」です。

ヨガ・ニドラは心と体を深くリラックスさせ、睡眠の質を向上させる

ヨガ・ニドラが心と体を深くリラックスさせ、睡眠の質を向上させる

ヨガ・ニドラは、心も体も深くリラックスした状態を作り出す瞑想法です。

「ニドラ」はサンスクリット語で「眠り」を意味します。ヨガ・ニドラを行っている際の人間の脳波は、リラックスしている際のアルファ波と夢を見ている状態のシータ波を行ったり来たりします。これは単純に眠っている状態とは異なり、意識と無意識の狭間に位置していることを示します。

ヨガ・ニドラは、道具を必要とせず、横になるだけで手軽に実施できます。身体を動かす必要もないので、高齢者でも身体が不自由な方でも取り組めます。

ヨガ・ニドラは本来はインドの賢者などが行い密かに伝承されてきたものですが、現在はアメリカでヨガ・ニドラをベースに、臨床心理士リチャード・ミラー博士が開発した瞑想法“iRest”が普及しています。

PTSDへの効果研究の結果から軍事病院や医療機関、ホームレスの避難所や学校など幅広い分野で実践されています。(※5)

自律神経には交感神経と副交感神経があり、日中の活動時は交感神経が優位になり、睡眠時は副交感神経が優位になるなど、お互い活性化したり沈静化したりバランスを取りながら生活しています。

過度なストレスや継続したストレス状況下では交感神経が活性化し続け、寝つきを悪くし、睡眠の質を低下させます。帰宅後も仕事のことをぐるぐると考えていたり、寝る直前まで持ち帰った仕事をしていたりすると、心も体も活性化して、なかな睡眠モードに切り替えできません。交感神経と副交感神経のバランスが崩れると、身体的な症状として出てしまうこともあります。

現在社会でストレスを完全になくすことは難しく、とくに忙しい生活を送っている方は、ストレス解消のために趣味を実践する時間も取りにくいものです。したがって、日々の生活の中でコスパよくストレス解消する必要があるわけです。

ヨガ・ニドラは、自律神経含め身体が活性化した状態や、感情が不安定になっている状態に働きかけ、心身ともに落ち着かせることができます。

ヨガ・ニドラのエビデンス、関連研究

ヨガ・ニドラに関する研究についていくつか紹介します。

Haa International Retreat Center で行われた研究では、ヨガ・ニドラを行っている間の脳画像をPETスキャナーにより撮影した結果、意識が深く安定した状態を保っているという結果が得られました。実施者はこの結果に驚き、「ここまで意識をコントロールできるとは思っていませんでした」とコメントしています。(※6)

女性に嬉しい研究も行われています。2016年に行われた韓国の研究では、ヨガ・ニドラの実施が生理痛に効果があるという結果が報告されています。12週間ヨガとヨガ・ニドラを合わせて1時間実施したグループは、ヨガをやらなかったグループに比べ、生理痛が著しく緩和されたそうです。(※7)

ヨガ・ニドラが生理痛に与える影響を調査した研究はほかにもいくつか存在します。(※8, 9)

ヨガ・ニドラを実践したことにより、循環器系疾患や癌患者などの患者が、メンタルヘルスが向上したという研究結果も報告されています。南オーストラリア大学の研究では、不安や抑うつが軽減し、肯定的状態や活力、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)が向上したという報告が行われています。(※10)

このほかにも、ヨガ・ニドラの研究は先述したアメリカのiRestで積極的に行われています。近年では、睡眠だけではなく、抑うつや痛み、労働者のストレスなどに関する研究結果が報告されています。こちらのWebサイトに各研究結果がまとまっていますので、気になる方はご参照ください。

ヨガ・ニドラを実践することで心身ともに様々な効果が期待できます。安らぎを自分自身で作り出しましょう。

ヨガ・ニドラのやり方・実践入門

それではヨガ・ニドラを実践する方法をご紹介します。

1. 環境を整える

まずは静かな環境を用意しましょう。ベットの上やヨガマットの上など心地よく横になれる場所を用意します。

頭の下に枕を置いたり、寒さを感じるようでしたらブランケットなどを用意しましょう。突然人から声をかけられないようにしておくことも大切です。

2. 姿勢を整える

仰向けの姿勢になります。足先は肩幅より広く開き、足首の力を抜きます。両腕は身体の外側にダランと離し、手のひらは上向き、脇の下は拳一つ分ぐらいスペースを作ります。

頭を左右にコロコロと揺すって心地よいところを探し動きを止めます。肩が上がっていることに気づいたら、肩を下げましょう。

準備ができたら優しく目を閉じます。

3. 呼吸に意識を向ける

まずは、呼吸に意識を向けていきます。なるべく鼻呼吸・腹式呼吸で、自然な呼吸を続けていきます。お腹の膨らみや、空気の出入りなど、呼吸に関することに意識を向けます。

気持ちが落ち着いてきたことを感じたら、次のステップに進みます。

4. 身体のパーツに意識を向ける

次は身体のパーツに意識を向けていきます。身体全体に意識を向けるのではなく、パーツ一つ一つ順番に意識を向けていきます

まずは、左足にはどのような感覚がありますか?温かさや冷たさ、痛いやかゆみ、緊張やだるさ、しびれ、どのような感覚でも良いので、気づき受け入れていきます。何も感じない場合もあります。もし、不快感を感じたら、吸う呼吸で新鮮な空気を届け、吐く呼吸で不快感を一緒に吐き出すイメージで呼吸を続けます。

左足から始め、右足、お尻、お腹、背中、胸、次に左腕、右腕、肩、首と段々と意識を上に向けます。顔のパーツは神経が細かいため、あご、舌、喉、顎関節、頬、鼻、目、耳、こめかみ、眉毛、眉間、おでこ、頭のてっぺんと細かく観察します。

5. 重さを意識する

次は、身体の重さに意識を向けます

まずは左足に意識を向けます。吐く呼吸に合わせて、緊張がほぐれ、だんだんと左足が重くなります。重くなるたびにリラックスし、疲れが抜けていきます

次は右足です。右足も吐く呼吸のたびに重くなり、ベットに沈み込んでいきます。そのまま、左腕、右腕、お腹、肩周り、頭と続けます。

6. 温かさを意識する

次は、身体の温かさに意識を向けます

まずは左足に意識を向けます。吐く呼吸に合わせて、だんだんと左足が温かくなります。足の裏を中心にじんわりと温かさが広がっていきます。

右足も同様です。次は左手です。吐く呼吸に合わせて、だんだんと左手が温かくなります。手のひらを中心にじんわりと温かさが広がっていきます。そのまま右手、お腹、肩周り、頭と続けます。

7. 最後に、ゆっくりと目覚める

最後に少しずつ身体を目覚めさせていきます

手足の指先を開いたり、閉じたり、少しずつ力を入れていきます。頭を左右にコロコロ、膝を立て足を左右にパタパタと倒します。

左右どちらかにゴロンと身体ごと倒し、ゆっくりと頭が最後になるように起き上がりましょう。準備ができたら、ゆっくりと瞬きをしながら、両目を優しく開きましょう。

インドの修行僧が行う古典的なヨガ・ニドラは眠ることは良くないと言われていました。しかし、私たちはインドの修行僧とは違い、睡眠の質を高めるため、リラクゼーションなどの目的で実施すると考えると、そのまま眠っても問題ないでしょう。

文字にすると長いですけど、意外と簡単ですね!これなら、寝る前に実践できそうです。

ヨガ・ニドラを実践すると心も身体もリラックスし、そのまま眠りに落ちてしまうことがありますが気にせずに!

ヨガ・ニドラで睡眠の質を高め、自分自身の健康や、仕事のパフォーマンス向上に活かしていきましょう。

参考文献

※1 睡眠時間はどこへ消えた?, 大和総研グループ

※2 『潜在的睡眠不足』の解消が内分泌機能改善につながることを明らかに, 国立精神・神経医療研究センター (NCNP)

※3 国立精神・神経医療研究センター・三島和夫部長らの研究グループが、睡眠不足で不安・抑うつが強まる神経基盤を解明, 国立精神・神経医療研究センター (NCNP)

※4 健康づくりのための睡眠指針 2014 ~ 睡眠12箇条 ~ に基づいた保健指導ハンドブック,尾崎章子(東北大学)・巽あさみ(浜松医科大学)

※5 Transforming trauma: A qualitative feasibility study of integrative restoration (iRest) Yoga Nidra on combat-related post-traumatic stress disorder

※6 Pictures of the brain’s activity during Yoga Nidra, Robert Nilsson

※7 Doing This Once A Week Will Cure Your Period Pain, Anthea England(Women’s Health)

※8 Impact of Yoga Nidra on psychological general wellbeing in patients with menstrual irregularities, Khushbu Rani, SC Tiwari, Uma Singh, GG Agrawal, Archana Ghildiyal, Neena Srivastava

※9 Effects of an integrated yoga program in modulating psychological stress and radiation-induced genotoxic stress in breast cancer patients undergoing radiotherapy., National University of Singapore

※10 Randomized controlled trial of yoga for chronic poststroke hemiparesis: motor function, mental health, and quality of life outcomes., Immink MA, Hillier S, Petkov J.