年のせいか、理由もなく落ち込んだり、ちょっとしたことでイライラしたりと、心が落ち着かないことがあるように思いますが、これって「情緒不安定」なんでしょうか?自分の感情に振り回されて、とても疲れてしまうような。こんなとき、どうすればいいのでしょうか?

それは、まさに「情緒不安定」の状態かもしれませんね。自分の感情をうまくコントロールしたいなら、まずは原因と対処法をおさえることです。その上で、自分自身で対処すべきか、専門家へ相談すべきかなどを判断していきましょう。

情緒不安定になると、気持ちが落ち着かない自分自身への対処に困るはずです。激しく揺れ動く感情をおさえたいとき、これからご紹介する方法を参考にしてみてください。

情緒不安定とは?

心が安定せず、感情の起伏が激しい状態は「情緒不安定」と呼ばれています(※1)。情緒不安定になるとリラックスした気持ちになれず、すぐに泣いたり怒り出したりして、感情をうまくコントロールできなくなります(※2)。これは決して珍しい状態ではなく、誰でも経験する「正常な心の揺れ動き」です。

「自律神経のバランス」の乱れが、要因のひとつ

情緒不安定な状態になる要因はさまざまで、その一つが自律神経のバランスが乱れることです(※3)。

自律神経とは、消化器や呼吸器など身体の働きを調整する神経のことで、自分の意思とは関係なく、一日中、働き続けています(※4)。昼間や活動中で活発になる「交感神経(身体の働きを促す)」と、夜間やリラックス中で活発になる「副交感神経(身体を休ませる)」の2つから成り立っていることが特徴です。

それぞれが状況に応じて、バランスよく働くことで、私たちの身体は正常に機能します。しかし、自律神経のバランスが乱れると、身体はベストな状態を保てなくなり、次のような症状を感じるようになるのです。情緒不安定になるのは、症状の一つです。

<精神的な症状>

感情の起伏が激しくなる、イライラや不安を感じる、やる気がでない、パニックになりやすい、など

<身体的な症状>

不眠になる、身体のだるさを感じる、動悸、頭痛、食欲不振、など

自律神経が乱れる原因は? ストレス、睡眠不足、カフェイン

情緒不安定につながる「自律神経の乱れ」は、なぜ起きるのでしょうか。精神的なものと身体的なもの、3つの要因が考えられます。

情緒不安定のイラスト

<ストレス>

精神的な要因の一つが「ストレス」です(※5)。私たちは人間関係や仕事などで悩みを抱えたり、ケガなどで体に痛みを感じたりすることで、ストレスを感じます。一日中、身体の働きを調整している自律神経は、ストレスによる影響を自然と受けてしまうのです(※3)。身体はストレスを受け続けると、交感神経が優位になり続け、副交感神経とのバランスが取れなくなってしまいます

<睡眠不足>

身体的な要因として「睡眠不足」が挙げられます(※ 3)。人間の体は、規則的な生体リズムに従い、それぞれの器官が必要な役割を果たしています。しかし、慢性的な睡眠不足に陥ると、生体リズムが狂ってしまい、自律神経のバランスも乱れてしまうのです。その結果、身体の機能を調整する役割に影響が出るだけではなく、不眠が悪化して、さらに自律神経が乱れてしまう悪循環に陥ります(※ 6)。

<カフェインなどの物質による作用>

身体的な要因として、カフェインやニコチン、アルコールなどの物質による作用も考えられます(※3)。とくに注意したいのが、カフェインです。カフェインには交感神経の働きを強くする作用があり、多量摂取すると身体が興奮状態になります。その結果、自律神経のバランスが乱れやすくなるからです。

自分の生活をあらためて振り返ってみると、睡眠不足が続いていたり、何かとストレスを溜め込んでいたりと、自律神経の乱れにつながる生活をしていたように思います。

十分な睡眠などを心がけた結果、状態が改善されれば問題ありません。しかし、生活習慣などを改善しても効果が見られないようであれば、何らかの病気を疑う必要があります。ここからは、情緒不安定なときに考えられる病気について解説していきますね。

その情緒不安定、疾患の一症状かも?

自律神経が整う生活をしているにもかかわらず、情緒不安定な状態が長く続いていませんか。その場合、代表的なものとして、次のような精神疾患・身体疾患になっている可能性があります(※7)。

<うつ病>

気分障害の一つで、幸せな気持ちを感じることや、楽しいことに興味を持つことが難しくなる病気のことです。一日中落ち込んでいたり、些細なことでイライラしたりするときは、うつ病の可能性があります。そのような精神症状のほかにも、不眠が続く、食欲不振、疲れやすいなどの身体症状があらわれることもあります。

<双極性障害(躁うつ病)>

「うつ状態(ひどく落ち込む状態)」と「躁状態(気分が高揚した状態)」を繰り返す病気のことです。躁状態のときには気分が高まり、ギャンブルで散財するなど、無謀で大胆な行動をとることがあります。うつ病と同じく気分障害の一つですが、うつ病とは治療法が大きく異なるため、専門家の判断が必要です。

<不安障害>

過度に心配や不安になってしまい、日常生活に影響が出る病気のことです。社会不安障害やパニック障害、強迫性障害など、さまざまな種類があります。例えば、社会不安障害になると、人前で恥ずかしい思いをすることが怖くなり、パニック発作を起こしたり、人が多くいる場所(電車やバスなど)で過ごせなくなったりします。

<更年期障害>

性ホルモンの低下やバランスの乱れにより、情緒不安定や体調不良になることです。女性の場合は、閉経前後のおよそ10年間で「女性ホルモン(エストロゲン)」の分泌が急激に減少することによって起こります。一方、男性の場合は、一般的に中年以降、加齢とともに「男性ホルモン(テストステロン)」が穏やかに減少することによって起こります。

女性特有の「情緒不安定の原因」とは? PMS、PMDD

情緒不安定の原因は、基本的に男女差がありません(※7)。ただし、女性の場合は、「PMS(月経前症候群)」や「PMDD(月経前不快気分障害)」の影響によって、情緒不安定になることがあります(※3)。

<PMS(月経前症候群)>

月経前の3〜10日間に心身が不安定な状態となり、情緒不安定や不安感が増す、食欲の変化、倦怠感を感じるなど、精神的・身体的な不調があらわれる症状のことです。個人差はあれど、これらの症状が強くあらわれるのは生理前で、生理開始から終了までのあいだで徐々におさまっていきます。

<PMDD(月経前不快気分障害)>

PMSのさまざまな症状のなかで、イライラや気分の落ち込み、不安などの精神的な症状が強くあらわれる症状のことです。PMDDは抑うつ症状の一つと考えられており、情緒不安定になることで、人間関係などに影響が出てしまいます。

なるほど。自律神経の乱れだけではなく、病気や女性特有の症状によっても情緒不安定になるんですね。

はい。自分の感情をうまくコントロールしたいのなら、原因に合わせた対処が必要です。すぐに試せる対処法もあるので、自分の状態に合わせて試してみてくださいね。

自分自身の気持ちを安定させるには?

イライラや不安な気持ちで心が満たされると、思考が内側に向いてしまい、周りが見えづらくなります。その結果、自分本位な言動をしたり、他人を気遣う余裕がなくなったりしがちです。トラブルを起こさないためにも、次のような方法を使い、気持ちを落ち着かせましょう。

(1)即実践できる!気持ちを落ち着かせる方法

落ち着きたいとき、五感を刺激するなどして、身体からアプローチする方法があります。

<深呼吸する>

深呼吸には、リラックス効果があるといわれています(※8)。

ピエールフィリップポット氏らの研究では、感情と呼吸は相互に関連しており、呼吸の仕方を変えれば、気分を変えられることが示されました(※9)。例えば、感情が高まると「浅く荒い呼吸」になる一方、リラックスすれば「深くゆっくりとした呼吸」になります。そして、感情もまた、呼吸のパターンに呼応するように変化していくのです。

落ち着きたいなら、息をゆっくりと吐きましょう。そのとき、副交感神経が刺激され、気持ちが落ち着き始めます。

<心地よい香りを嗅ぐ>

落ち着きたいとき、心地よく感じる香りを嗅ぐのもおすすめです。湘南医療大学の川本利恵子教授らの研究では、自分の好きな香りを嗅ぐことで肯定的な感情が誘発され、リラックスできることがわかりました(※10)。

そこで、日常生活にアロマオイルやハーブティー、香りのする入浴剤などを取り入れてみましょう。イライラしたときには、好きなアロマオイルを染み込ませたハンカチを嗅ぐのも手です。心地よく感じる香りは日によって変わるため、そのときに心地よく感じる香りを選んでください。

<冷感刺激を利用する>

精神科医の伊藤拓氏によれば、冷静さを取り戻したいときには「冷感刺激」が有効だといいます(※11)。

冷感刺激とは例えば、冷水で顔を洗ったり、冷たい水を飲んだり、冷やした缶コーヒーを額に当てたりすることです。そのような方法で皮膚から冷感刺激が入れば、脳が一気に覚醒します。そして、イライラや落ち込んでいる気持ちがリフレッシュされ、冷静になれるそうです。

(2)第三者視点で自分を眺める

身体へのアプローチだけではなく、考え方を変える方法もあります。いつも冷静でいたいなら、第三者の視点で自分自身を眺めることです(※12)。これを脳科学の世界では「メタ認知」といいます(※13)。

メタ認知ができないと、自分の感情に左右されてしまい、現状を適切に判断しづらくなります。例えば、イライラに振り回されて、目の前のことに手がつけられなくなるのです。一方、メタ認知ができれば、現状を適切に判断しやすくなります。例えば、「私はイライラしているようだ」と自分の状態を冷静に把握できると、「とはいえ、今は目の前のことに集中したほうがいい」と自分の感情を除いた合理的な判断がしやすくなるのです。

(3)医療機関を受診する

情緒が安定しない状態が1か月以上続いたり、日常生活に何らかの影響が出ていたりするのなら、医療機関を受診しましょう(※14)。

自分では「大したことはない」と思っていても、病気が関係しているかもしれないからです。その場合、きちんと診断を受けた上で、専門家による治療や支援が必要となります。

例えば、原因がPMS/PMDDや更年期障害であれば、低用量ピルなどのホルモンを使った治療が行われることがあります。適切な治療を行なうためにも、つらさを感じる状態を放置せず、内科や心療内科を受診することが大切です。

周囲が情緒不安定になったら? 接し方で気をつけること

情緒不安定になると、いつもは気にならない言葉でもネガティブに受け取ってしまうことがあります。そして、自分が否定されたように感じる人もいるのです。身近な人がそう感じないように、工夫できることがあります。

(1)冷静な態度で接する

感情的になっている相手には、冷静な態度で接することです(※1)。

心理学では、無意識に他人の感情に共感し、その感情が自分のなかで湧き起こっていると勘違いすることを「情動感染」と呼びます(※15)。しかも、情動感染は「負の感情(怒りや不安など)」に起きやすいとされるのです。例えば、電車内で乗り合わせた人が悲しんでいると、自分まで悲しい気持ちになったことはないでしょうか。それが情動感染です。

相手のイライラに感染して、自分もイライラし始めれば、感情的なケンカに発展する可能性があります。そうならないように、相手と自分の感情は切り離して、平静を保つようにしましょう。そして、相手が落ち着くのを待ってから、自分の気持ちを伝えるようにします。

(2)共感しながら話を聞く

感情的になっている相手には、アドバイスしたり解決策を提示したりせず、共感を示す態度で接することです(※7)。

心理療法家のカール・ロジャーズ氏は、話し手が自由に安心して話せるようにするには、話し手の態度が重要だと考えました(※16)。とくに、聞き手が話し手の感情を自分が感じているかのように感じ取り、かつ、その感情に巻き込まれないようにする「共感的理解」が大切だとしています。そうすることで、話し手が自分自身をよりよく理解することにつながるからです。

感情的になっている相手に、「気にしないほうがいい」などのアドバイスをして、励ましたくなるかもしれません。しかし、その言葉で相手は不安を大きくさせたり、「不安を感じてしまう自分が悪いのだ」と思ったりする可能性があります。そうならないように、共感しながら話を聞いて、相手の自己理解を促しましょう

自分や周囲が情緒不安定な状態の時に、対処法を知っていることは大事ですね。それ自体が、「また、情緒不安定になっても大丈夫そうだ」と心強い気持ちになる助けになります。

いろいろな対処法を試してみて、「感情に振り回されずに気持ちを安定させること」を身につけることができれば、より心身ともに健康な毎日を送れるようになるのではないでしょうか。ぜひ、今回ご紹介した方法を参考にしてみてください。

監修:尾林 誉史
精神保健指定医/日本医師会認定産業医/コンサータ登録医師/公認心理師
東京大学理学部化学科卒業後、(株)リクルートに入社。退職後、弘前大学医学部医学科に学士編入し、東京都立松沢病院にて臨床初期研修修了後、東京大学医学部附属病院精神神経科に所属。VISION PARTNER グループ 代表、VISION PARTNER メンタルクリニック四谷 院長。

現在、16社の企業にて産業医およびカウンセリング業務を務める他、メディアでも精力的に発信を行なっている。また、カウンセリングを気楽にできるカウンセリングルーム「VISION PARTNER」の代表も務める。
https://vision-partner.jp/

<参考文献>

※1:「情緒不安定」な女性の特徴とは? 原因や対処法、職場に不安定な人がいる時の上手な付き合い方を紹介

※2:【専門家に聞いた】「情緒不安定」の原因は?「不安」や「ストレス」を軽減する対策法

※3:情緒不安定を治すには?情緒が安定しない原因や考えられる病気とは

※4:誰でもできる自律神経の乱れを整える方法で体調管理

※5:自律神経が乱れる原因とは?ストレスや生活習慣の乱れに要注意

※6:自律神経が整えば「眠りの質」はぐっと良くなる

※7:情緒不安定なときはどうすればいい?原因や診断、対処法などを解説します

※8:立命館大学 学生サポートルーム、深呼吸でリラック

※9:Pierre Philippotら(2010)、Respiratory feedback in the generation of emotion

※10:川本利恵子ら(2013)、日常生活における香りに関する影響要因の検討

※11:【精神科医が教える】心を今すぐ落ち着かせたい時に使える、驚くほどすぐに効くリラックス法

※12:「心を落ち着かせる」方法とは?イライラや不安を感じたときに試したい行動・考え方

※13:イライラ、不安、後悔…心がザワついたときは「鏡」を見よう

※14:【情緒不安定におすすめ】薬剤師が厳選した市販薬9選【2021年】

※15:感情の伝染とメンタルヘルス

※16:立命館大学人間科学研究所、カール・ロジャーズに学ぶ「聴く姿勢