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先の見えないコロナ渦が続くなか、医療現場のスタッフだけではなく、テレワークを行なうビジネスパーソンが「バーンアウト(燃え尽き症候群)」になるリスクが高まっている。

バーンアウトになると、それまで熱心に働いていた人が急に意欲をなくし、燃え尽きてしまう。その結果、休職に追い込まれたり、うつ病になったりすることがある。

バーンアウト未経験の人は、それは滅多に起きないことだと思うかもしれない。しかし、バーンアウトを長年研究してきた同志社大学政策学部・総合政策科学研究科教授の久保真人先生は「バーンアウトは誰しもが経験しうること」と話す。

今回は、久保先生にバーンアウトのメカニズムや予防法などを伺った。

久保先生は、いつ頃からバーンアウトを研究されているのでしょうか?

1990年代の初めから、研究テーマの1つとしてバーンアウト研究に取り組んでいます。1980年代から日本でもバーンアウトの概念が広まってきましたが、まだ十分に知られていません。

正しい理解がより広まるよう、バーンアウトについて詳しくお伺いさせてください。

「バーンアウト」は失恋とよく似た気持ちになる

——バーンアウトとは、どのような概念なのでしょうか?

日本語で「燃え尽き症候群」と訳されます。燃え尽きと聞くと、やり切った姿をイメージする人が多いはずです。たとえば、試合で実力を十分に発揮して、満足感や達成感を得たスポーツ選手が、引退会見で「燃え尽きました」と話す姿を想像すると思います。しかし、バーンアウトはそのようなポジティブな状態ではなく、ネガティブな状態です。

そもそも、バーンアウトの概念を初めて提唱したのは、米国の心理学者フロイデンバーガーです。1974年、臨床の現場で働いていた彼は、同僚が不調を訴えてからしばらくすると、燃え尽きたかのように仕事への意欲を失い、社会に適応できなくなるのを目撃しました。その姿を「ドラッグ常用者が陥る無感動・無気力の状態」を意味する俗語「バーンアウト」を使って表しています。

ですから、バーンアウトは「やり切った状態」ではなく、燃えたかったのに燃えられなかった、いわゆる「不完全燃焼の状態」です。とはいえ、バーンアウトを定義するのは難しいので、みなさんが理解しやすいように、私はバーンアウトを失恋に例えて説明しています。

——「あしたのジョー」の最終回のような、完全燃焼した状態ではないと。どちらかというと「失恋」ですか。

はい、バーンアウトは失恋とよく似た状態だからです。想いを寄せた相手のために努力したのに、振り向いてもらえない。十分な見返りがないまま、燃えきれずに終わってしまうのが失恋だとします。失恋すると今までの努力が一瞬で消えてしまい、途方にくれることでしょう。

バーンアウトは、それと近い状態です。対象は「好きな相手」ではなく「仕事」ですが、熱心に取り組んできたのに報われないことが続くと、不完全燃焼の状態に陥ってしまいます。長時間勤務などのストレスの蓄積が背景にあります。

久保 真人(くぼ まこと)/同志社大学 政策学部・総合政策科学研究科 教授

バーンアウト・燃え尽き症候群によって引き起こされる、ネガティブな結果

——バーンアウトになると、どのような診断を下されることが多いのでしょうか。

そもそも、バーンアウトは何らかの病名がつくような疾病ではありません。世界保健機関(WHO)はバーンアウトを「疾病」ではなく「職業に関連した不適応状態」と定義しました。

職業上の不適応によって生じる状態であり、そのままにしておくと、うつ病などの疾病状態に移行することがありますが、メディカルチェックで「バーンアウトになったから病気です」などと診断されることはありません。

——なるほど。バーンアウトになっても、すぐに立ち直れるものなのでしょうか。

立ち直るのは、ある程度の時間がかかります。バーンアウトの対象は「仕事」です。自らのキャリアを賭けて、エネルギーを注いできた職業で燃え尽きてしまえば、別の職業を探そうとしてもなかなか難しいでしょう。とくに専門職の人は「別の職業で働けるのだろうか」と不安になると思います。

回復までの時間は「勤務年数の長さ」や「仕事に注いだ労力」によっても変わります。

勤務年数の短い若手社員がリアリティ・ショック(理想と現実のギャップに衝撃を受けること)型のバーンアウトを経験したときは、回復が早いはずです。職務に対する考え方を現実に適応させるだけでバランスを回復できる場合が少なくないからです。

一方、勤務年数が長いベテラン社員は、回復までに時間がかかるでしょう。自分のなかで完成した仕事の型を否定されたような気持ちになり、心に大きなダメージを負うからです。その結果、精神的に追い詰められて疾病を発症して休職したり、離職してキャリアを失ったりする人が大勢います。熱心に働く優秀な人を失うのは、組織にとっても大きな損失です。

ストレスを溜めやすい性格・環境でバーンアウトしやすい

——バーンアウトの原因を教えてください。

「個人要因」と「組織要因」の2つがあります。

個人要因としては、仕事熱心で真面目、あるいは完璧主義の人です。ひたむきに働く人は多くの仕事をこなそうとして、できないことに悩みがちです。人と深く関わりながら、精神を消耗させてしまいます。また、切迫感を持って「忙しい」と駆け回っているような人もストレスを受けやすく、燃え尽きやすいと言われています。

——該当する人は少なくないでしょうね。組織要因には何が考えられますか。

バーンアウトはストレスが高じて起こるので、ストレス要因とされる「過重労働(長時間勤務や厳しいノルマ、高い仕事の質を求められるなど)」を強いられる環境です。

また、何をどこまでやることが期待されているかわからない「役割があいまいな状況」が大きな要因になると考えています。

役割があいまいな状況とは、たとえば、従業員に仕事のやり方などをすべて任せている職場です。一見、自由に働けて良さげに感じるかもしれません。しかし、真面目な人にとっては、無定量・無制限な努力を強要されているように感じ、バーンアウトしやすい職場なのです。

図:バーンアウトの因果関係
引用:バーンアウト (燃え尽き症候群) ヒューマンサービス職のストレス

これらの個人要因と組織要因が組み合わさり、対処しきれなかったストレスが蓄積されるとバーンアウトが起こりやすくなります。

たとえば、仕事の裁量が大きく自由に働ける環境で、熱心に働く能力のある人です。一見、周りから見ると順調に仕事をこなしているようにみえますが、大きなリスクを抱えています。

バーンアウトになるのはヒューマン・サービス業だけではない

——こうした原因を踏まえると、バーンアウトになりづらい職業・なりやすい職業がありそうですね。

バーンアウトや燃え尽き症候群になりにくいのは、たとえば、明確なゴールを達成しようと、生産計画に従って進めていく製造業です。ほかにも、営業目標の数字が決められている営業職もなりづらいと思います。

一方、看護師や医者、保育士など、人間を相手にするヒューマン・サービス業はなりやすいでしょう。人が相手の仕事なだけにゴールが明確ではなく、かつ成果が見えにくく、達成感をなかなか得られないからです

——ヒューマン・サービス業に就く人は、とくに注意が必要なんですね。

はい。ただ、WHOによるバーンアウトの定義では「職業に関連した」と文言が入っていますが、子育てや介護でも起こり得ます。たとえば、子育て中に頑張って育児をしても、期待どおりに育たなかった。自分の思い込みが一気に崩れたとき、バーンアウトが起きることがあるのです。つまり、バーンアウトは特定の職業の人だけではなく、誰でもなりうる可能性があります。

——誰でもなりうるバーンアウトですが、測定する尺度はあるのでしょうか?

田尾雅夫先生(京都大学名誉教授)と私とで、「日本版バーンアウト尺度」を作成しました。この尺度では、「こんな仕事, もうやめたいと思うことがある」などの17項目に対して、自身の経験にてらして回答してもらいます。

日本版バーンアウト尺度

No設問分類
1こんな仕事、もうやめたいと思うことがある。E
2われを忘れるほど仕事に熱中することがある。PA
3こまごまと気くばりすることが面倒に感じることがある。D
4この仕事は私の性分に合っていると思うことがある。PA
5同僚や患者の顔を見るのも嫌になることがある。D
6自分の仕事がつまらなく思えてしかたのないことがある。D
71日の仕事が終わると「やっと終わった」と感じることがある。E
8出勤前、職場に出るのが嫌になって、家にいたいと思うことがある。E
9仕事を終えて、今日は気持ちのよい日だったと思うことがある。PA
10同僚や患者と、何も話したくなくなることがある。D
11仕事の結果はどうでもよいと思うことがある。D
12仕事のために心にゆとりがなくなったと感じることがある。E
13今の仕事に、心から喜びを感じることがある。PA
14今の仕事は、私にとってあまり意味がないと思うことがある。D
15仕事が楽しくて, 知らないうちに時間がすぎることがある。PA
16体も気持ちも疲れはてたと思うことがある。E
17われながら、仕事をうまくやり終えたと思うことがある。PA

日本版バーンアウト尺度についての註釈

Yesの回答を1点として評価。ただし、分類PAについては逆転項目なので、Noの回答を1点とする。

高い方がバーンアウト傾向が高いが、「何点以上はバーンアウトに該当する」という絶対的な基準はないので、注意。あくまで、全体の中で相対的な位置を推定するので、「良い(または悪い)状態に向きつつあるかどうか」に気づくために使われる。

<分類について>
情緒的消耗感(E) ・・・ 仕事を通じて、情緒的に力を出し尽くし、消耗してしまった状態。
脱人格化 (D)・・・ 顧客やクライエントに対する無常で、非人間的な対応となる状態。
個人的達成感の低下(PA) ・・・ 職務に関わる有能感、達成感の低下の状態。こちらのみ逆転項目。

引用:バーンアウト (燃え尽き症候群) ヒューマンサービス職のストレス

なお、利用上の注意点としては、こちらの尺度で、「何点以上はバーンアウトに該当する」という絶対的な基準はありません。「何点以上だからバーンアウトになっている」と診断が下ることはなく、あくまで相対的な位置や変化を推定するためのものです。

心を消耗させないために「突き放した関心」を意識する

久保 真人(くぼ まこと)/同志社大学 政策学部・総合政策科学研究科 教授

——バーンアウトの予防法を教えてください。

バーンアウトは失恋とよく似ていると考えると、失恋しない方法を考えるのが近いですね。失恋は好きな相手に献身的にのめり込んだ結果、報われないことで起こります。そうならないためには「思い詰めず、冷静で客観的な態度でいる」ことが大切です。

思い詰めない人は仕事をクールに割り切ってこなせるので、看護師などのヒューマン・サービスの場合は、患者さんからの評価が低いかもしれません。一方、患者さんから高い評価を得やすいのは温かく、共感性を持って接することができる人ですが、後者のような気持ちを持つ人ほど熱心で「失恋」しやすく、バーンアウトしやすいといえます。

——そのようなジレンマがあるなかで、どうすればバーンアウトを防げるのでしょうか。

仕事の中で「突き放した関心」を意識することです。

「突き放した関心」とは相手に対して温かく共感性を持って接するだけではなく、冷静で客観的な態度でいることを指します。バーンアウト研究を続けるなかで、高いレベルのサービスを長年提供し続けている人は、この「突き放した関心」を意識していることがわかりました。

私が看護師のバーンアウト研究で出会った、ある優れた看護師長さんもそのお一人です。当時、彼女は白血病の患者が入院する病棟で働いていました。

白血病は治療が難しい病気で、入院中に亡くなられる方も少なくありません。また、患者さんの中には年齢の若い方も含まれています。担当した患者さんが亡くなると、看護師さんは「もっと何かしてあげられることがあったのでないか」という気持ちを感じ、その考えにとらわれてしまうことがあるそうです。そして、出口のない思いを抱える中でバーンアウトのリスクが高まります。

だからこそ、彼女は担当する患者さんが亡くなった看護師さんに「不幸にも亡くなられた患者さんであっても、最後までしっかりと看護できていれば、それだけで達成感を感じていいんだよ」と必ず声を掛けるそうです。

サービスを提供できる範囲で関心は持っても、それ以上は関与しない。それを心がけることで自分の限界を知り、不要な努力を削ることで、バーンアウトせずに高いレベルのサービスを提供できます。そのことを知っていたからこそ、彼女は周りのバーンアウトを防ごうと声かけしていたのです。

——どこまでも献身的にのめり込むのではなく、「ここまで貢献しよう」と自分のなかでゴールをもつことが大切なんですね。

バーンアウト・燃え尽き症候群に有効なのはストレス対処。その兆候は「悪口」

また、バーンアウトの背景にはストレスの蓄積があるので、その予防には、ストレスへの対処が効果的です。たとえば、長時間労働を避けたり、ワークライフバランスを保ったりすることができます。ほかにも、ソーシャル・サポート(周囲からサポートを受けること)を積極的に利用するのがおすすめです。

ちなみに、バーンアウトが起きる前には兆候があります。それまで熱心に働き、不満を口にしなかった人が突然、同僚や顧客の悪口を言い出すことです。献身的に尽くしても十分な見返りが返ってこないとき、自分を守ろうと周りを否定する行動をとってしまうことがあります。それで心のバランスを取れる人がいる一方、取れない人は自己否定に向かいバーンアウトするのです。

図・バーンアウトの3つの段階
情緒的消耗感
↓
脱人格化
↓
個人的達成感の低下
 図・バーンアウトの3つの段階

これまで誠実に仕事をこなしていた人が突然同僚や職場環境などについて批判的な言動をするようになったら、周りの人がその変化に気づき、話を聞くなどのサポートを行う必要があります。

バーンアウトは必ずしもマイナスになる悲劇ではない

——これまでのお話をお伺いしていると、やはりバーンアウトにならないように予防するのが最も大切なのでしょうか。

実は、バーンアウトの結末は、必ずしもマイナスになる悲劇ばかりではありません。バーンアウトにならないためには対象と一線を引いた態度が必要ですが、最初からそうできる人は稀でしょう。突き放した関心のエピソードでご紹介した看護師長さんも、何度もバーンアウトに近い経験をされている。しかし、だからこそ自分のなかで「理想との距離の取り方」を掴むことができました。

それもまた、失恋とよく似ていますよね。失恋しても、それが最後の恋愛になるわけではありません。失恋が新しい出会いへのステップとなります。バーンアウトは失恋と同じように、成長して、仕事とのより幸せな関係を築くための通過儀礼でもあるのです。

実際、バーンアウトしたあとに転職した職場で、意欲的に働いておられる看護師さんもいます。燃え尽きたとしても、その経験から学んで方向転換できれば、より高いレベルの仕事をこなすことにもつながります。

——バーンアウトになったとしても、悲観的な気持ちになることはないんですね。

誰しも経験しうることなので、なってしまった場合は極端に重く捉えないことが重要です。周りにバーンアウトしそうな人がいたら「失恋と同じようなものだよ」と言ってあげることで、相手は深刻になりすぎず、気持ちが軽くなるのではないでしょうか。

また、「愚痴っていいんだよ」「話を聞くよ」と声をかけることも大切だと思います。自己否定はバーンアウトに繋がるので、むしろ周囲を頼り、ときには周りに責任を被せるのが自分を守ることにつながります。そのようにして、本人が背負っている重荷を周囲で分け合うようなサポートができれば、たとえバーンアウトになっても大きな痛手にはならないでしょう。

コロナ渦でバーンアウト・燃え尽き症候群のリスクが高まっている

——コロナ渦では、医療従事者などエッセンシャルワーカー(人々の生活にとって必要不可欠な労働者)のバーンアウトが問題視されているそうですね。

新型コロナウイルスに関わる医療従事者の多くは、通常の医療現場とは違うストレスを感じています。

たとえば、医師にとっては、新型コロナウイルスの治療と対応に追われるなか、自らの専門スキルを発揮する場所を失ってしまうと感じることがあるそうです。専門的治療の機会を奪われ、見守りに近いコロナ治療に携わる毎日が灰色に見える人もいるそうです。さらに、コロナ渦がいつ終息するのか、終わりが見えません。バーンアウトした医師の離職が頻発している病院もあるそうです。

——医療従事者に大きな精神的負荷がかかっている状況なんですね。

はい。また、医療現場ではなく、ビジネスシーンでもバーンアウトが起きやすくなっています。

コロナ禍をきっかけにテレワークが普及した結果、公私の区別が薄れていき、何時間でも仕事しやすくなりました。加えて、人と接する機会が減ったことで、褒められる機会が少なくなったのではないでしょうか。

たとえば、コロナ渦の前まで普通だったオフラインの会議では、解散したあとに上司や同僚から何かしらのフィードバックがあったと思います。「あのプレゼン、よかったよ」などと褒められれば、それが仕事のモチベーションになるでしょう。

——確かに、仕事の打ち合わせの後のスキマ時間で、そうしたやり取りを受けて学ぶこと・奮い立つこともありますよね。

しかし、コロナ禍で普及したオンラインの会議では、フィードバックがないまま突然終わることがあり、達成感を得にくく、バーンアウトが起こる条件が揃っているのです。

このような状況だからこそ、周りからのフィードバックが得られにくいので、自分自身を褒めることも必要です。また、医療従事者だけではなくビジネスパーソンも、前述の「突き放した関心」を心がけたほうが良いかもしれません。

——確かに、突きつめるといくらでも手をかけられる仕事はありますね。そうしたことに対して、「ここまでをゴールとする」という自分の中の区切りは必要なのかもしれないですね。

バーンアウトを引き起こす社会的な変化。相互監視、高度専門職の競争環境など。

久保 真人(くぼ まこと)/同志社大学 政策学部・総合政策科学研究科 教授

——コロナ禍での問題をお伺いしましたが、バーンアウトを取り巻く世の中に対して、ほかにはどのような課題を感じておられますか?

そうですね。なんとなく、世の中の相互監視の目が厳しい時代になっているように思います。

例えば、最近関心を持っているのは、公務員などの公共サービスを提供する人たちに対して、世間の目が厳しくなっていることについてです。私が教員を務める大学院のゼミには、救急救命士の方も参加されています。その方の話では、救急救命士が休憩中にコンビニでコーヒーを買っているだけで、近隣住民から「税金で食べているのに休むのか」と言われることがあるそうです。

そのように、「こうなければならない」という固定観念を皆が持つようになり、それと少しでも違うと否定する世の中になってきたと感じます。「社会や仕事のために個人の生活が犠牲になるのは当たり前」といった考えが正しいような風潮というか。

そのような状況で、特に公共サービスを提供する人たちが、落ち度を探すような監視の目を意識するあまり、休むことや仕事のペースを落とすことに罪悪感を感じるようになり、大きなストレスを感じてバーンアウトするリスクが高まってきているのではないでしょうか。

——何かあったときにも限定的な問題に留まらず、SNSで大々的に炎上したりすることもありますよね。その他はいかがでしょうか?

現在、医師や弁護士を対象としたバーンアウト研究を進めています。

実は、かつては高度なスキルを必要とする専門職(プロフェッション)は、自分のやり方を貫き通す自由や高い社会的地位や収入など恵まれた環境の中で、バーンアウトしづらいと思われてきました。しかし最近では、医師や弁護士のバーンアウトが急増しています。

その理由は、以前に比べて、そうしたプロフェッションに対しても、クライアントに寄り添ったサービスが強く求められているからです。たとえば、医師はセカンドオピニオンの認識が広まったことで、サービス業のように患者に寄り添うことが期待されています。弁護士も司法改革によって弁護士が急増するなか、選ばれるにはより良いサービスを提供しなければなりません。

——プロフェッションが提供する仕事も、競争にさらされやすくなっているんですね。

私たちの目線で接してくれるのは良い面がある一方、果たしてこれでいいのだろうかとは感じています。クライアントからの要求とは一線を引き、「何が正しいのか」にしたがって行動するのが本来のプロフェッションだと思います。クライアントに過度に寄り添うことは、プロフェッションのサービス業化につながり、彼らが本来持っていた裁量権を奪ってしまいます。プロフェッションの中でバーンアウトが急増している背景にはこのような事情があると考えています。

——「お客様は神さまです」という考え方は、利用者としてはありがたいものですが、そうした弊害も考える必要があるのかもしれないですね。

バーンアウトが起きないように、社会全体で一様に揃えるのではなく、もっとそれぞれの立場や個性などを尊重できる部分があってもいいのではないかと思っています。

本日はバーンアウトについて、興味深いお話をありがとうございました。「突き放した関心」の考え方など、バーンアウトの本質や予防、回復のためのヒントを得ることができました。

バーンアウトを防ぐには本人だけでなく、周囲ができることも多くあります。社会全体として、バーンアウトの知見をもっと持てる世の中になると良いですよね。そのための研究を、引き続き進められればと思います。

(聞き手・編集:齋藤 理、撮影:松井 舞、文:流石 香織)

久保 真人(くぼ まこと)/同志社大学 政策学部・総合政策科学研究科 教授

1998年京都大学大学院文学研究科博士号取得。2007年より現職。
研究テーマはバーンアウト(燃え尽き症候群)、ヒューマン・サービス組織。『バーンアウトの心理学』(単著・サイエンス社)、『よくわかる看護組織論』(編著・ミネルヴァ書房)など著書・共著書多数。