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女性が9割を占めるという摂食障害。思春期に起きやすいといわれるが、大人になってからこの病気に苦しむ人も珍しくない。内科医として、30年以上にわたり摂食障害の治療にあたってきた、日本摂食障害協会理事長で、跡見学園女子大学心理学部の鈴木眞理氏は「とても丁寧に、真摯に生きてきた方がなりやすい病気。ストレスのもとを探り、心を楽にすることが大切です」と話す。コロナ禍で患者も増加している中、その実態と治療や予防について伺った。

女性に多いという摂食障害ですが、男性も含めて誰もがかかりうる病気ですよね。大人になって発症するケースも増えているとか。

男性は別の病気に隠れているケースが見受けられます。自分はもちろん、身近な方が摂食障害になった場合のサポートについても、ぜひ知っていただければと思います。

摂食障害の病型は3つ、中でも神経性やせ症は高い死亡率に

——日本の摂食障害の患者数は増加傾向にあるのですか?

摂食障害の受診患者数は年間約 2 万5000人と推計されていますが(※1)、実際にはもっと多くいらっしゃいます。この病気はご本人が治したがらない、病院に来てくれないという特徴があるため、なかなか実数が掴みづらいのです。

ここ2年のコロナ禍で、患者さんは明らかに増えました。特に、小学校高学年から中学生が目立ちます。非常事態だからとたくさんの我慢を強いられ、子供たちにとって逃げ場がなくなっているからではないかと考えています。「コロナ太り」という言葉も一時期よく言われましたが、そういうメディアの影響もあるかもしれません。

——コロナ禍で患者数が増えているのですね。具体的にどんな病気かを教えてください。

摂食障害の病型は主に3つあり、拒食症といわれる「神経性やせ症」、過食症といわれる「神経性過食症」、および「過食性障害」を指します。

——「神経性やせ症(拒食症)」「神経性過食症」「過食性障害」の3つがあるのですね。

1. 神経性やせ症

まず神経性やせ症ですが、これはさらに2つに分けられ、一つはとにかく食事量を制限する摂食制限型、もう一つは過食(明らかに普通よりも多い食物をコントロールできないと感じながら一定時間内に食べてしまう行動)や排出行動(嘔吐や下剤の大量使用など)を繰り返す過食排出型があります。

摂食障害の病型3つの特徴をまとめた図
摂食障害についての分類

やせたくて食事量を制限しているうちに反動で過食することがあるのですが、これはある意味、脳の正常な働きで、飢餓に耐えかねて脳が怒ってしまい、過食に繋がります。

神経性やせ症、いわゆる拒食症の方はやせていないと安心できないので、無茶食い衝動が起きても吐いたり下剤を使ったりして体重が増えないようにします。そして明らかな低体重となり、BMIは摂食障害の軽度で17~18.4、最重度なら15未満になるほどです。

——脳が飢餓状態に耐えきれず過食に転じても、嘔吐や下剤などを使ってまたやせてしまうんですね。

2. 神経性過食症

——次に、神経性過食症というのはどういうものですか?

神経性過食症、いわゆる過食症ですが、食事量のコントロールができずに頻繁に過食をする状態で、嘔吐や下剤を使って体重を戻します。ただし、明らかにやせている拒食症とは違い、ほとんどの方が標準体重です。周囲から見ると過食症とは気づかないのが、問題を難しくしています。

——神経性過食症の場合は体重が正常値なのですね。意外な印象です。

3. 過食性障害

——3つめの過食性障害とは?

神経性過食症と同様に、繰り返される過食が特徴ですが、嘔吐や下剤といった代償的ダイエット行動は伴いません。そのため過体重や肥満の方が多いですね。この過食性障害のみ男女の割合は半々で、糖尿病や肥満外来の患者さんに、過食性障害の方が隠れていることがあります。

死亡率が比較的高い神経性やせ症(拒食症)

——摂食障害にも、いろいろとあるんですね。中でも、先生は一つめの神経性やせ症をご専門にされていますが、実際の病状について教えてください。

神経性やせ症、いわゆる拒食症は、命に危険がおよぶ病気です。精神疾患の中で死亡率が最も高く、いくつかの追跡調査によると、6%〜11%という数値になっています(※2, ※3)。

栄養失調からくる低血糖で意識がなくなって、朝まで気づかれないとか、栄養状態が悪いため感染症にもかかりやすいということもあります。例えば、肺炎になって一晩で亡くなることもあります。肺炎なら抗生物質が使えると思うかもしれませんが、体に力がないと、そもそも抗生物質も効いてくれません。

あとは嘔吐していると、致死性の不整脈を起こす低カリウム血症になる場合もあります。

——精神疾患のなかで最も高い致死率とは初めて知りました。栄養状態が悪化すると、確かに感染症にもかかりやすくなるというのはうなづけます。

摂食障害の根っこは全て「ストレス対処不良症」、神経性やせ症には遺伝子の影響も

摂食障害の原因となる「ストレス対処不良症」のイラスト

摂食障害になりやすい人の特徴。ストレスへの対処、環境要因など

——摂食障害になりやすい人には、どういう特徴があるのでしょう。

摂食障害はどの病型も根っこはほぼ同じで、ストレス対処不良病です。つまり、ストレスへの適切な対処が出来ていないと言うことですね。さらに、そこには性差やさまざまな環境要因が絡んできます。

神経性やせ症については、素因として持っていると神経性やせ症になりやすい8つの遺伝子というのが、2019年にヨーロッパの研究結果で報告されました。一つ一つの遺伝子が直接起因するわけではもちろんありませんが、これらの遺伝子を持っていると、他にも強迫性障害や不安障害、うつ病、パニック障害などのメンタル系の病気にかかりやすいこともわかっています。

一方で、これらの遺伝子には糖尿病や肥満になりにくい特徴もあり、いい側面もあるのです。

——持っていると神経性やせ症になりやすい遺伝子が発見されたんですね。摂食障害全般に性格的な要素は影響するのでしょうか?

ある程度、その傾向はありますね。神経性やせ症は真面目で平和主義な方が多いと言われます。決めたことは必ず実行しないと気が済まない、教科書は隅から隅まで理解しないと不安という完璧主義で、修行僧のようなイメージです。

逆に、過食症の場合、相手の困った顔を見たくないので、自分に不利でもNoが言えない八方美人タイプが多いと言われます。「気遣い」のように見えますが、人間関係が不安で怖いので、我慢して無理しているのが原因で、発症しやすいのです。

——なるほど。完璧主義は神経性やせ症、NOが言えない愛想のいい人は神経性過食症というのは分かる気がします。さきほど、患者さんが病院に来てくれないというお話がありましたが、患者数などはどのように調査されるのですか?

病院で実態を把握できないので、学校ベースで調査しています。高校生では拒食症の方が0.3%程度いるのですが、これはアメリカの調査結果とほぼ同じです。

一方で、過食症はその5倍以上はいると言われています。外見が正常体重なので、本人がよほど困らないと病院に来てくれず、どこから病気かという線引きがすごく難しいのです。

女性に多いと言われる拒食症・過食症。その文化的・遺伝的背景。

——過食症が拒食症の5倍以上とは。拒食症も過食症も女性が圧倒的に多いということですが、メディアなど文化的な影響も大きいのでしょうか?

メディアは1980年代以降、「やせると自信が持てる、やせさえすれば一発逆転できて幸せになれる」と刷り込みをしてきました。そこに、メタボを減らしたい健康行政も後押しして、「やせ礼賛」の時代です。ダイエットも一般的な言葉として定着しました。

精神的に問題がない方ならば、激しいダイエットをしても、途中で脳の正常反応であるリバウンドが起こって健康体重に戻ります。ですが、摂食障害になりやすい要素を持った方は「挫折感の挽回」目的のダイエットを契機に発症しやすい。ダイエットが直接の原因ではないけれど、発症する患者数を増やして、摂食障害の裾野の広がりに繋がっています。

女性の多さで言うと、女性ホルモンが影響していることもラットの研究でわかっています。ネズミでもストレスがかかると食事量が減りますが、オスよりメスで影響が大きいのです。ちなみに、メスも女性ホルモンを出している卵巣を取るとオスと同じになります。女性ホルモンの影響で、メスの方がストレスによって食行動に影響を受けやすいといえます。

女性に多い摂食障害、一つの原因は女性ホルモン

依存症と同じ、摂食障害があるから「現実を忘れられる」

摂食障害になる原因と、そのチェック方法

——さまざまな理由で“やせたい”と思っている人は多いはずですが、摂食障害になるかならないかでは何が違うのでしょう?

回避理論というのが関係して来ていると言われます。逃げたい現実、見たくない現実があるということ。薬物依存と一緒です。薬自体の快感ではなく、それによって嫌な現実を忘れられるからハマってしまう。

神経性やせ症では、やせていく間のことを覚えていないと言います。頭がボーッと鈍感になっていくのですが、それで現実を見ないで済むようになります。過食症も食べることにおぼれている間だけ、何も考えないでいられる快感があるのです。

——逃げたいものがあるから摂食障害に…。自分が摂食障害かどうかをチェックする方法はあるのでしょうか?

摂食障害かどうかの診断基準(※4)があるので、自分でチェックすることは可能ですが、実際のところ自己判断は難しい部分があります。

特に、神経性やせ症は病気の意識のない方が多いです。これは脳科学の実験でも実証されていのですが、現実にいくらやせていても、本人は“太く”見えてしまっているので、自覚できないのです。周囲から見てどれだけやせていても、顔が丸いとか足が太いとかおっしゃるのは、本人には本当に「そう見えている」からなんですね。

脳の認知にも影響をあたえる摂食障害

——え、どれだけやせていても本人には“太く”見えている…。脳の仕業とは驚きです。本人にとっては、それが現実なんですね。

さらに、たとえ体重の数値にマズイと感じても、「私、学校に行っているし、何も困ってない」と思う。加えて、拒食症の方にとっては、やせによる安心効果というのが自分にとって必須のものになっているので、病気だと認めるのが難しいのです。

——やせているのが自分の美徳であり、自信にもなる?

現実から逃げるために、無意識に必要だと思っています。

重症となり月経が止まったりしている状況で、「異常ってわかるよね?」と本人に聞くと、「異常だと思います。でも大丈夫です」と言うんですね。実際、やせても元気なのが特徴の一つです。

普通なら弱ってヨタヨタする体重でも拒食症の方が元気でいられるのは、脳の前頭葉の障害で、疲れや痛みを感じなくなっているからです。毎朝走ってトレーニングしたりする過活動もセットとなっている人もいますが、中には走っている途中に亡くなる方もいます。

——脳の認知がおかしくなっているのですね…。ところで、単なるダイエットのつもりが摂食障害へ進むこともあると思いますが、危険なダイエットの判断基準はありますか?

異常に成功したダイエット、つまり、いつもならリバウンドしてしまうのに、今回は異常に成功してしまったなどは気をつけた方が良いかもしれません。そして、すでにかなりやせているのに、女性なら月経が止まるほどやせたのに、まだ太いと思うボディイメージの障害もその兆候の一つです。短期間で10kg近い減量をするのは非常に危険です。

栄養素では、炭水化物抜きダイエットは危険なダイエットだと考えています。脳のエネルギー源は基本的に炭水化物なので、それがなくなると、体脂肪を燃やしてケトン体をエネルギー源として使います。それは、体の負担を大きくしていて、決して正常な状況ではありません

その状況になると、脳はいつもぼんやりして、メンタルは鬱っぽくなり、脳機能は悪化し、集中力も思考力も落ちていきます。最初は飢餓によるハイな状態(スターベイション・ハイ)で物事がとんとん進んだりするのですが、その後はガクッと落ちてしまいます。

—炭水化物を抜くことによる脳機能の悪化は、どのくらい続くと良くないのですか?

炭水化物抜きではありませんが、必要なエネルギーの約6割の食事を食べる臨床試験では6か月以内に変化が見られています。また、アメリカ、日本、スウェーデンでは、低炭水化物食では死亡率が高くなることがわかっています。

炭水化物を食べない状態でお腹がすくと、タンパク質を積極的に摂取する方が多いのですが、純粋タンパク質というのはプロテインしかありません。肉ばかり食べていると、蛋白質と脂肪を取っていることになり、その結果、動脈硬化が進んで死亡率が上がるのです。

摂食障害治療の第一歩は気持ちを楽にして「食べてもいい」と思えること

鈴木 眞理(すずき まり)/跡見学園女子大学心理学部臨床心理学科 特任教授
政策研究大学院大学名誉教授
総合内科専門医、内分泌代謝科専門医、日本医師会認定産業医

摂食障害の治療方法

——治療ではどういったことを行うのですか?

「拒食症なら食べさせて体重を増やす」「過食症なら過食発作をやめさせる」のが治療と思われるでしょう。ただ、食べられないも、過食発作も心理的な原因があって、最後の表現として症状に出ているのです。風邪の熱や咳と同じですね。最終的な治療は、本人が対応できないで逃げ出したい問題を解消しなければなりません

もちろん、神経性やせ症で、やせ過ぎで生命が危機的状態とか、飢餓によって思考力が低下している場合、また、成長期でこの時期にやせていると身長が低いままの大人になってしまう場合は、ある程度の体重増加を優先させます。でも、体重を無理矢理正常に戻せば、見張りをつけて過食発作を阻止すれば治るという病気ではありません。ご家族もよく誤解されます。

では、摂食障害の原因は何でしょうか?命を懸けて逃げたい現実、アルコールのように過食して、その刹那だけでも忘れたいものとは何でしょうか?

完璧主義、不安症で怖がり、他人の評価に過敏、低い自己肯定感、対人恐怖と八方美人などが関係してきます。このような素因を持っていると、生活のすべてがストレスになってしまいがちです。一つでも思うようにいかないと挫折感、自分の行動をくよくよ考えて不安、人一倍他人に気を遣って自分の意見が通せない不満をそのままにしておくと、病気になってしまいますよね。

神経性やせ症も過食症も、完璧主義やべき思考などの認識を修正して、出来事をバランスよく受け止めることが回復につながります。

——認知の歪みと言われるものですよね。その修正が必要だと。

さらに、ストレスに対して、がむしゃらに頑張るか我慢する方法しか使わない方が多いのですが、専門的な知識を集めて分析して計画的に解決する、周囲の人に相談したり愚痴をきいてもらったりする、人に任せる、諦めて忘れる、などいろいろなストレス対処(コーピングスキル)ができるようになるのが、治療の最終目標です。

一方で、患者さんの多くは「体重を増やされるのが怖い」「過食は憎いけれど、今は過食に救われているので止めるのが怖い」と思っているので、なかなか治療者と何でも話せる関係になりにくい。これはなかなか大変です。

さらに、考え方や行動を変える、というのはエネルギーも時間もかかります。そのため、摂食障害の回復には年単位を必要とします。この過程に至るには、まず、治療者と本人の治療関係ができて、本人がほっとできる環境になって、この病気に関する正しい情報を得る心理教育を受けてからになります。

大切なのは、心理教育で摂食障害のメカニズムを理解すること

——病気のメカニズムを理解する、心理教育が大事なんですね。

また、たった今、学業やクラブ活動や仕事などで心身の負担が大きいなど現在進行形のストレス状態では、そうした本人の心理教育という最初のスタートにも付けません。まず気持ちを楽にしてあげることが大切です。そもそものストレスが何だったのかを聞いて、そこが解除できないかをお話しします。たとえば進学校なら一つクラスを落としてもらうとか、クラブの部長をやっていてすごく苦労があるなら休部しましょうとか。

そのうえで、「この病気は心身症であり、頑張り屋さんや気遣いさんがかかる病気です。やせや過食は実はあなたの心を守っている面もある。でも、ずっと病気でいるわけにはいかないので」という話をするようにします。本人が「怖いけれど、体重を少しは増やして〇〇したい」とか、「過食で憂さを晴らすのではなく、他の方法を探そう」と少しずつでも思えるようになることが第一歩です。

——なるほど。周囲からするとなんとかして食べさせたいと思うけれど、もとのストレスを減らし、心理教育で考え方を見直してもらうのが大事、と。

もちろん、命に関わるときは強制入院してもらうこともありますが、やっぱり基本的にはストレス病。食べないことで頭がぼんやりして、辛い現実から逃げていられるのです。過食している間だけ、嫌なことを忘れられるのです。

だからまず、その状態を受け止めて、今を肯定します。繰り返しますが、この病気は真面目な方が多く、患者さんは「病気になっちゃって親にも迷惑かけている」と必ずおっしゃるのですが、一方で自分の認識と周囲の認識のギャップに苦しんできている、いわば四面楚歌の状態になっています

だから、どんなに痩せている方だとしても、「自分だけ太って見えて辛いよね」と受けとめた上で、脳の認識が実際とは異なっている話もしっかり伝えたうえで「ちょっと怖いかもしれないけれど、〇〇がしたいならあと2kg増やしていこうか」と治療のスタートラインに立つようにします。過食症では、過食費用を計算して、「今月は1日100円減らしてみるのはどうでしょう」と勧めます。

摂食障害が「生きるための杖」になることも

——やせていることを指摘されたり、食事を強要されたり…、確かに当事者は逃げ場がありませんね。

とはいっても、思春期なら大人がいろいろ動けば解決できることが多いので治りやすいのですが、もう少し大人になってからだと、簡単にはいかなくなります。というのは、摂食障害があったからこそ、生き延びられたという人たちがいるからです。

——大人の場合は摂食障害の期間が長く続くと、そういう自分でしかいられない?

頭がボーッとした状態で嫌な現実を見ないでいるから、生きていられる。仕事を続けたり、家庭を維持できたり、ある意味、摂食障害で自身を武装しています。そこで無理に太らせようとしたら、一気に現実を感じすぎて生きていられなくなる危険性もあります。

摂食障害は本人にとっては『生きるための杖』だから、突然取っちゃダメだよ」とも言われる所以です。

——摂食障害は「生きるための杖」…ご本人にとってはそのくらいマストだと。大人の場合は、より本人の生き方と絡んでいるので、簡単に変えるわけにいかないのですね。

私たちは「手放す」という言い方をするのですが、本人が摂食障害である自分を手放してもいいと思えるかどうか。そこを見極めて、接するようにしています。例えば、結婚して子供もいるような方だと、「やせて月経がないのだったら、骨粗鬆症の予防や治療はしましょう」」とそのまま共存していくやり方を採るような場合もあります

摂食障害になる方は、すごく丁寧に、真摯に生きている方が多いんです。「今の時代、生きづらいよね」と私は心の底から思うし、それはいつも伝えています。

愛情と関心が患者を救う、心配なら喧嘩してでも「大丈夫?」の声かけを

鈴木 眞理(すずき まり)/跡見学園女子大学心理学部臨床心理学科 特任教授
政策研究大学院大学名誉教授
総合内科専門医、内分泌代謝科専門医、日本医師会認定産業医

摂食障害の再発を予防するために

——摂食障害が『生きるための杖』になっているようなケースもあるというお話がありましたが、改善したとしても、繰り返すことはないのでしょうか?

もちろん、回復後にも気を許すと、やせに逃げたら楽だなとか、過食嘔吐したら楽だなと思ってしまうのも事実です。ですから、その気持ちが大きくなってきそうだったら、何か(治療)をやろうねと話します。

この病気のフィニッシュは、やはり二度とならないように、どうしたら予防できるかというのを本人が学ぶこと。完全に思いが消えなくても、できる限り小さくして、うまく付き合っていく。「これをやっておけば、自分は大丈夫だ」と思えるものを見つけることです。

実際、私の患者さんで慢性化される方はありますが、治癒されると再発される方はほとんどいらっしゃいません。回復なさると、やせ症や過食嘔吐で失っているものも多いので、やっぱり戻りたくないと思っているのですね。

——摂食障害への誘惑を小さくしながら付き合うというのが、再発予防なのですね。そもそも摂食障害にならないために何が必要でしょうか?

まずは、この病気があるということを、学校関係者や家族など周囲が知っておくのが大切です。摂食障害になりそうなタイプはある程度わかるので、なるべくストレスを減らしてあげるように周囲が関わってあげる。勉強しないその他大勢の生徒に「勉強しないと将来大変なことになる」と脅しても病気になりません。しかし、摂食障害になる方は、額面通り信じて恐怖心を持って、自分を苦しめるほど勉強を始めます。このような方には、「手の抜き方」を伝授しないといけないでしょう。兄弟姉妹が両親からひどく叱られている様子を見て、怖くなって良い子を演じ続けている場合もあります。

それから、コーピングスキル(ストレス対応の技術)やコミュニケーションスキルを身につけるよう、小学校のころから取り組んでほしいと思います。嫌なことを頼むときの頼み方、意見が対立したときの折り合いの付け方、そういうソーシャルスキルトレーニングを早いうちに身につけるのは有効です。

摂食障害の患者への周囲の接し方・寄り添い方

——ストレスをためない方法やコミュニケーションスキルを学んでいくことが大事だと。家族や友人が摂食障害になったとき、周囲はどんなサポートができますか?

愛情と関心を持ってほしいですね。なんだかやせてきたと思ったら「大丈夫?」「困ってるの?」「大変なことがあった?」と何でもいいので声をかけてあげてください。本当に心配だったら喧嘩してでも言ってほしい。大切なのは、「心配しているんだ」ということを、ちゃんと伝えてあげることです。

実際、10年後に良くなって、「あの状況で声をかけてくれて、本当に感謝している」とご本人が話すことがあります。

——たとえ、そのときは気まずくなったとしても、声をかけることが大事、と。摂食障害の治療や予防について、これからどんな取り組みをしていくべきでしょうか?

この病気は1980年代から患者を診るようになった新しい病気です。医師なら、あるいは、精神科医なら皆詳しく知っているというレベルに達していません。管理栄養士も臨床心理士も大学で正確に学ぶ機会を持てない現況です。

優秀な管理栄養士の方が、摂食障害の患者さんにメタボリック症候群と同じ栄養指導をしたり、臨床心理士さんが「母親の愛情不足ね」と間違った対応をされたりすることもありました。摂食障害を専門に診られる医療施設や医療者もなかなかすぐに増えません。

そういう中で大事なのは、患者さんと家族、支援する周囲の人々がしっかり勉強すること。地域社会で関わっていくことです。

学校の先生も、摂食障害になりそうな子は長年の知識や経験でわかるので、ちょっとやせてきたと思ったら「無理しちゃダメだよ」と声をかけたり、クラスやクラブで負担が大きそうな場合は負担を減らしてあげる支援をしたりできます。人生が少しでも楽にうまくいくような支援を、みんなで少しずつしてあげることが大事です。

摂食障害を取り巻く社会的な課題

——摂食障害を社会の問題として考えていくのがベストなのですね。

アメリカには摂食障害の治療センターが何百とありますが、日本には摂食障害全国支援センターと、たった4カ所の摂食障害支援拠点病院(宮城、千葉、静岡、福岡)しかないという厳しい治療環境があります。

摂食障害の病名で認められている保険収載薬はなく、服薬で治るものでもないですし、医療機関にとって医療者の時間や負担に見合う収益もありません。摂食障害の診療を中止している医療機関もあります。医療者も治療施設も増えにくい貧しい環境です。だからこそ、治療者サイドへの啓発や支援が大事だと考えています。

摂食障害全国支援センターは毎年、医師、看護師を対象に講習会を開催しています。日本摂食障害協会では設立後の3年間で、16都市30回の講習会を行いました。一般当事者、家族、養護教諭など学校関係者、栄養士、心理士、歯科医、薬剤師、企業、マスメディアなどいろんな方を対象に啓発や予防活動を行ってきました。

当事者の家族にしかわからない悩みもあるので、家族同士で話を聞く家族プログラムの研究も行っています。

——医療者だけでなく、さまざまな領域で摂食障害の理解を深めることが必要ですね。

それから最後にお伝えしたいのは、子供にあまり無理かけないでほしいということです。ユニセフ・イノチェンティ研究所が2020年9月に発表した先進国の子供の幸福度ランキングで、日本の子供は精神幸福度が38カ国中37位でした。「生活に満足している」と答えた子どもの割合が最も低い国の一つでもありました。

摂食障害はやはり10代の子供たちに多い病気です。でも、摂食障害に限らず、うつ病や不登校も根っこは同じ。子供たちがもっと生きやすくなる社会を、私たちは本気で考えていかなければならないと思っています。

体重を適正に戻せばいい、過食と止めればいいというわけではなく、当事者にとって、摂食障害は人生の根幹にかかわるものだということがよくわかりました。

摂食障害を手放すのは簡単ではありません。だからこそ、周囲にもしかして?と思う方がいたら、ぜひ声をかけてあげてください。その関心や愛情こそが最大のサポートになりますから。

鈴木 眞理(すずき まり)/跡見学園女子大学心理学部臨床心理学科 特任教授

政策研究大学院大学名誉教授

総合内科専門医、内分泌代謝科専門医、日本医師会認定産業医

長崎大学医学部卒業後、東京女子医科大学研修医を経て、1985年~1987年米国ソーク研究所に留学。2002年より政策研究大学院大学保健管理センター教授。2020年より現職。摂食障害の治療と研究に従事し、家族会を主催。日本摂食障害学会理事、一般社団法人日本摂食障害協会理事長として、厚生労働省や法務省の事業を支援。 日本心療内科学会学術奨励賞(2014年)、日本心身医学会池見賞(2016年)、内閣府「令和3年度女性のチャレンジ賞」を受賞。

<参考文献>

※1 摂食障害の現状 – 国立精神・神経医療研究センター
※2 Tnaka H et al. Psychiatry Clin Neurosci 55:389, 2001
※ 3 Amemiya N et al. Eat Weight Desord 17:e1, 2011
※4 摂食障害資料(診断基準、質問についての資料)