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職場で「周囲とうまくコミュニケーションできない」「忘れ物やミスが多い」「思うようにいかないとパニックになる」などの困りごとを抱えているビジネスパーソンがいるかもしれない。その原因がわからず、悩みが長期にわたって続く場合は「発達障害」の可能性が考えられる。

「発達」という言葉から、発達障害は子ども特有のものだとイメージする人が多いだろう。しかし、大人になってから発達障害に悩まされる人もいる。その当事者や周囲の人は、どのような対応を取ればいいのだろうか。

今回は、発達臨床心理学・応用行動分析学を専門とする明星大学心理学部心理学科教授の竹内康二先生に「大人の発達障害」との向き合い方を伺った。

ここ数年、さまざまなメディアで「大人の発達障害」という言葉を耳にします。しかし、それが子ども特有のものと何が違うのか、いまいちよくわかりません。

漠然としたイメージのままでは、大人の発達障害への適切な対処につながりません。大人の発達障害についての理解を深めていただけるよう、発達障害の支援を長年経験してきた私の知識をお伝えしたいと思います。

大人になってから「発達障害」を自覚する理由

——はじめに、「大人の発達障害」とは何を指すのでしょうか?

「大人の発達障害」とは、おおむね、大学生にあたる年齢以上の人が抱える発達障害のことです。発達障害とは行動や認知に特性(発達の凸凹)が生まれて、集団・社会生活で問題が起きている状態のことをいいます。その原因として、生まれつき脳機能に何らかの偏りがあることが指摘されていますが、まだはっきりとは解明されていません。

発達障害は特性によって「自閉症スペクトラム障害(ASD)」「注意欠如・多動性障害(ADHD)」「学習障害(LD)」に分類され、このなかで複数の特性を併せ持つ人もいます。

自閉スペクトラム症(ASD)
・コミュニケーションの障害
・対人関係、社会性の障害
・こだわりの強さ
(自閉症・アスペルガー症候群)
注意欠如多動性障害(ADHD)
・不注意(ミスが多い)
・多動性、多弁性(集中できない)
・衝動的に行動する
学習障害(LD)
・読み、書き、計算などが著しく苦手
・知的な発達には問題がないことが多い
発達障害の分類(※1)

このような特性によって、仕事でミスを繰り返したり周囲とトラブルに発展したりするなどの問題が生じやすいのが、大人の発達障害といわれる状態です。

——先ほど、「原因として、生まれつき脳機能に何らかの偏りがあることが指摘されている」と教えていただきました。では、どうして幼少期は発達障害に気づかず、大人になってから気づく人がいるのでしょうか?

そのような人は、大人になるまで発達障害の特性が見過ごされてきたからです。

そもそも、発達障害の人は「凹(苦手な部分)」がたくさんある一方、「凸(得意な部分)」は人並み以上にできるといわれています。例えば、不注意によるミスを繰り返すことが多いけれども、好きなことにはかなり集中して取り組むことができます。そのような得意・苦手は誰にでもあるでしょう。ただ、発達障害の人はその差が大きく、これは「発達凸凹」と呼ばれています。

幼少期に、発達凸凹が現れていた人もいるでしょう。しかし、その程度が軽かったり、保護者や友人が「この子はこういう性格なのだ」と個性のひとつとして捉えていたりすることで、大きな問題にならなかったはずです。つまり、発達凸凹が問題ない環境にいたからこそ困りごとが起きず、発達障害に気づかなかったといえます。

しかし、大人になると進学や就職で、幼少期とは違う環境で過ごすことになります。その環境が発達凸凹に合わないと、さまざまな困りごとが起こり始めるはずです。そのとき、「自分は発達障害なのだろうか?」と初めて気づき、診断を受ける人がいます。

このことからもわかるように、「発達凸凹」と「環境」との相性次第で問題が起きるのです。

「とにかく診断する」ことが大事なわけではない

——発達障害の特性を知って、「自分は発達障害かもしれない」と強く感じる人がいるかもしれません。そのような人が利用できる検査方法には何がありますか?

診断の目的に合わせて、簡易的にできる「自己記入式症状チェックリスト」と、専門医が伴う「医療機関での診断」を利用できます。

医療機関を受診する前に、現在の症状を少しでも把握したいのであれば、「自己記入式症状チェックリスト」を利用するといいでしょう。こちらは第三者の視点が入らないため、信頼性はそこまで高くありません。ただし、診断結果は医師に相談する際、自分の症状を伝える材料として使えます。

チェックリストとして成人期のASDなら「RAADS-14」が、成人期のADHDなら「ASRS-v1.1」が用意されています。

<成人期のASDチェックリスト>

質問項目14を
・現在においても、過去(16歳以下)においてもあてはまる
・現在においてのみあてはまる
・過去(16歳以下)においてのみ、あてはまる
・現在も過去も、あてはまらない
の4つの合計得点で計算。
1.他の人と話している時に、他の人が感じていることを理解するのは難しい
2.他の人が気にしないような普通の感触のものが肌に触れると、とても不快になることがある
3.集団で働いたり、活動したりすることはとても難しい
4.他の人が自分に期待したり、望んだりしていることを理解するのは難しい
5.社交的な場面で、どのように振る舞えばよいのかわからないことがよくある
6.他の人と雑談やおしゃべりをすることができる
7.自分の感覚に圧倒されてしまう時は、落ち着くために一人になる必要がある
8.どのように友達を作るのかや、人と社交的に付き合うのかは、自分にとって謎である
9.誰かと話をしている時に、自分が話をする番なのか、話を聞く番なのかが分からないことが多い
10.煩わしい音(掃除機の音、人の大声や過度なおしゃべりなど)をさえぎるために、
両耳をふさがないといけないことが時々ある
11.他の人と話をしている時に、相手の表情を読んだり、手や体の仕草の意味を理解することが
とても難しいことがある
12.全体像よりも細部に注目する
13.言葉通りに受け取りすぎて、他の人が意図していることに気がつかないことが多い
14.突然(物事が)自分の思い通りのやり方でなくなると、非常に動揺してしまう
RAADS-14「成人期のASDの自己記入式症状チェックリスト」(※2) 

合計点が14点以上で自閉スペクトラム症の可能性があるとされています。
発達障害でない方における平均は5点です。

<成人期のADHDチェックリスト>

この1週間の状態についてお答えください。質問に答える際は、過去 6 カ月間におけるあなたの感じ方や行動を最もよく表す欄にチェック印を付けてください。(※3)

質問項目
1.物事を行うに当たって、難所は乗り越えたのに詰めが甘くて仕上げるのが困難だったことが、どのくらいの頻度でありますか。
2.計画性を要する作業を行う際に、作業を順序だてるのが困難だったことが、どのくらいの頻度でありますか。
3.約束やしなければならない用事を忘れたことが、どのくらいの頻度でありますか。
4.じっくりと考える必要のある課題に取り掛かるのを避けたり、遅らせたりすることが、どのくらいの頻度でありますか。
5.長時間座っていなければならない時に、手足をそわそわと動かしたり、もぞもぞしたりすることが、どのくらいの頻度でありますか。
6.まるで何かに駆り立てられるかのように過度に活動的になったり、何かせずにいられなくなることが、どのくらいの頻度でありますか。

グレーの部分にチェックされると1点になります。4点以上で、大人のADHDの可能性があり、クリニック等でさらに確認する必要があると考えられます。

一方、専門医による確定診断を求めるのであれば、医療機関で診断する必要があります。その場合、専門医が問診や検査から総合的に判断し、発達障害かどうかの診断を下します。

とはいえ、このような診断で発達障害が判明したからといって、人によっては良い影響も悪い影響も与える可能性があります。診断結果によって、良くない影響を受ける人もいるのです。

——どのような人が良い影響を受けるのでしょうか?

発達障害による自己否定感(自分の行動や考え方、過去や未来を否定的に捉えること)に苦しんでいる人です。

発達障害の人は同じようなミスをしたり、何気ない言動で意図せず周りを不快な気持ちにさせたりするときがあります。原因もわからずそれが繰り返されると、「どうして自分はいつもうまくできないのだろう」と自己否定感をもちやすくなるはずです。しかし、問題の原因が発達障害にあるとわかれば自分を責めることがなくなり、苦手な部分を補う方法を考えられるようになるでしょう。

このように、発達障害である自分をポジティブに捉えられるようであれば、診断で自己理解を進めていくのがいいと思います。

——その一方、どのような人が良くない影響を受けるのでしょうか?

発達障害である自分をネガティブに捉える人です。「自分は発達障害だから、どうしようもない」「周りの人は発達障害の自分に対して配慮すべきだ」などと考える人がいます。

その場合、診断結果が問題解決につながらず、周りの人を戸惑わせることになりかねません。ですから、自己否定感がそこまで強くない人は診断に対して慎重になり、メリットについて考えた上で受診するといいでしょう。

「発達凸凹」を変えずに、職場での困りごとを減らしていく

竹内康二先生

——確定診断で発達障害であることを知り、実際に職場で発達凸凹による困りごとが起きています。その当事者は困りごとにどう対処すればいいのでしょうか?

前提として、発達障害は特性であって、それ自体に良し悪しがあるものではありません。大切なのは、それを事実として認識して、うまく付き合っていくことです。

周りにカミングアウトせずに自力で対処するのであれば、2つの取り組み方が考えられます。1つ目は、ツールを使って「発達凸凹」を補償・増強することです。

発達凸凹があってもセルフマネジメント(目的・目標を達成するため、自分自身の感情や行動を管理すること)によって、凹(苦手な部分)を補いつつ凸(得意な部分)を活かせるようになれば、困りごとは減っていくはずです。とはいえ、セルフマネジメントが苦手な人もいますよね。そのような人は発達凸凹を補償・増強できそうなツールを使うことでセルフマネジメントしやすくなるのです。

例えば、情報を覚えるのが苦手で、するべきことを忘れてしまう人は自分の記憶を過信するのではなく、スマートフォンのスケジュール機能やリマインダー機能に頼るのも手です。「スケジュール帳に予定を書き込んでおいてアラームで通知する」「リマインダーで指定時刻に予定を通知する」などすれば、うっかり忘れてしまうことを防げるでしょう。

——なるほど。セルフマネジメントのサポート役としてツールを活用していけばいいんですね。

そうです。2つ目は、就労環境に工夫を加えることです。これまでご説明したとおり、「発達凸凹」と「環境」の相性が良くないと困りごとが起きます。とはいえ、生まれつきの発達凸凹は変えるのが難しく、困りごとを減らすには環境に工夫を加えなければなりません。

例えば、するべきことを忘れてしまう人は、今のままの環境では本人が「覚えておこう」といくら努力しても、どうしても忘れてしまうはずです。そこで、パソコンのディスプレイ画面などのよく目にする場所に「ToDoリスト」などのメモを貼っておき、思い出しやすい環境をつくっていきます。このようにして、発達凸凹と相性の良い環境をつくるのがおすすめです。

ただ、この2つの方法でも困りごとが減らなければ、職場の上司や同僚からのサポートを受ける必要があります。場合によっては、転職して働く環境そのものを変えざるを得ないかもしれません。いずれにせよ、まずはできることから取り組んでみて、それでも解決しない場合は次の対策に移るのがいいでしょう。

二次障害を防ぐために「ネガティブ思考」とうまく付き合う

竹内康二先生

——発達凸凹と相性が良くない環境を変えるのが難しく、つらい思いをしている人がいるかもしれません。そのような人は、つらい思いを続けるしかないのでしょうか?

いえ、今いる環境でもできることがあります。多くの発達障害の人は、周囲に自分の特性をなかなか理解されず、繰り返し注意されたり非難されたりすると自信がなくなり、自己肯定感が低下します。

その結果、「どうせ失敗するだろう」「何をしてもうまくいかない」とネガティブな感情に支配されてしまい、うつ病や不安障害などの症状を発生することがあります。このように、発達障害に伴って二次的に発生する問題が「二次障害」です。

二次障害のセルフケアとしておすすめなのが、私がアドバイザーをしている、障がい者雇用支援コンサルティングを行なう株式会社スタートラインが日本語版を作成した「ACTマトリックス・カード」を使ったセラピーです。

「ACTマトリックス・カード」の52枚あるカードの表面には「ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)※」という心理療法の概念を示すシンプルなイラストが、裏面にはカードの使い方が記載されています。

このカードを使えば、楽しく取り組みながらACTについて理解でき、二次障害の原因となる「ネガティブな感情」との上手な付き合い方を身につけやすくなります。

※ACT……マインドフルネスの考え方をもとに心理的柔軟性を生み出して、心の健康を維持・回復させる心理療法のこと。具体的には、自分の思考や感情を変えようとせず、ありのままの思考や感情とうまく付き合っていくことを促す。ストレス対処法として活用できる。

※参考記事:【保存版】ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)とは?

例えば、カードの1枚に「ピンクの象のカード」があります。これを使えば、アメリカの心理学者ウェグナーが1987年に行なった「シロクマ実験」を体験できます。シロクマ実験で使う動物は何でも構いません。今回は、シロクマのイラストを例にして解説していきますね。

まずは、このイラストをしばらく見てください。では、今からカードの裏面に書かれた「これから30秒間、いまイラストで見た動物のことだけは絶対に考えないでください」というルールを守ってください。いかがですか? 「考えないぞ」と思った瞬間に、シロクマのことを考えていたのではないでしょうか。

——はい、むしろシロクマのことを強く考えてしまいました。

そのように、ある考え・感情をおさえようとするほど、その考え・感情が頭に浮かんで離れなくなることを「皮肉プロセス理論」といいます。自分の頭のなかにシロクマを思い浮かべていないか確認するには、自分の思考回路にシロクマを載せる必要があり、皮肉にもシロクマのことを考えてしまうのです。

このような心のメカニズムを実際に体験して理解していくことで、ネガティブな感情と上手に付き合うヒントが見えてきます。

私たちは「また同じミスを繰り返すのではないか」「仕事相手を困らせたらどうしよう」と考えるほど不安になり、それを考えないようにするほど、ますます不安になってストレスが溜まります。

であるならば、「ネガティブなことは考えないようにする」と自分の思考をコントロールしようとするのではなく、ありのままの思考と距離を置くようにすればいいのです。そうすれば、ネガティブなことを考える時間が減ってストレスから解放され、二次障害を予防することにつながります。

発達障害を抱える人に伝えたい「レジリエンス」の大切

竹内康二先生

——ここまで「大人の発達障害」との付き合い方をお伺いしました。竹内先生は発達障害を抱える人へのさまざまな支援活動を行なっていますが、今後、とくに注力されていきたいことを教えてください。

とくに興味があるのは、発達障害を抱える人が「レジリエンス(心の回復力、しなやかさ)」を育んでいくことです。

今の世の中は発達障害への理解が広まりすぎたがゆえ、「発達障害の人がショックを受けて落ち込まないように配慮する」「とにかく成功体験を積ませる」といった考え方が主流になってきました。多くの人はその考え方でも構いませんが、当事者や周囲の人は「発達障害だから、つらい目に遭うべきではない」と思わないでほしいのです。

——それは、なぜでしょうか?

生きていく上で「レジリエンス」が大切だからです。なぜなら、生きていく上で困難には必ず直面し、ときには苦手なこともしなければいけません。その結果、失敗して落ち込むことや不安を感じることもあるでしょう。それ自体は悪いことではありませんが、そこから心を回復させられなければ、困難を乗り越えることはできません。

一方、「レジリエンス」があれば、落ち込んだ心を回復させることができます。失敗した経験から学びを得て俯瞰的な視点を身につけることで、困難を乗り越えやすくなるでしょう。その先に自己実現が待っているはずです。

このように生きるためには、困難を乗り越えていくために、「レジリエンス」を育むことが大切です。とくに、仕事の失敗などで大きなストレスを抱えやすいビジネスパーソンには「レジリエンス」が求められます。しかし、配慮が過剰な社会の中では、困難に直面することが減り、「レジリエンス」が育まれる機会まで少なくなってしまう懸念があると考えています。

発達障害の専門家として、レジリエンスを育んでいくのに必要な知識や方法論をきちんと整理し、発達障害を抱える人々に伝えていきたいと考えています。

(取材:生野賢司、編集:秦 正顕、撮影:遠藤麻美、文:流石香織)

【参考資料】
※1 社会福祉済生会WEBサイト 法人大人の発達障害との向き合い方~仕事のお悩み編~
※2 出典:RAADS-14-Screen is an abridged version of Ritvo Autism and Asperger Diagnostic Scale-Revised (RAADS-R). Cite: Eriksson JM, Andersen MJ, Bejerot S. RAADS-14 Screen: validity of a screening tool for Autism Spectrum Disorder in an adult psychiatric population. Molecular Autism 2013; 4:49.
岩波明 うつと発達障害 青春出版社 2019.
※3 出典:the ADHD-ASRS Screener v1.1 and ADHD-ASRS Symptom Checklist v1.1 are copyrighted by the World Health Organization

竹内康二(たけうち こうじ)/明星大学心理学部心理学科・教授

筑波大学大学院にて博士号(心身障害学)取得。
筑波大学研究員、慶應義塾大学研究員を経て現職。専門領域は応用行動分析学。
一般的な対応では改善が難しい行動上の問題に対して、応用行動分析学に基づいた方法で解決を試みている。
「すべての行動には意味がある」という観点から、一般的に「なぜそんなことをするのか分からない」と言われる行動を分析することを目指している。特に、社会的マイノリティとされる人たち、例えば障害児者とその家族などが生きやすい「多様性を認める社会」のあり方を探究している。