2009年にサンフランシスコでスタートし、人々がより良く生きる方法を考える国際カンファレンスとして、世界に広がる「Wisdom2.0」。2020年3月に初めて日本で開催されるが、それの創設者の1人が、マインドフルリーダーシップインスティテュート代表理事であり、企業を対象にリーダーシップ開発、組織開発などをのコンサルティングを行っている荻野淳也氏である。

マインドフルネスを軸にリーダーや組織の変容を支援している荻野氏が、なぜ日本でWisdom2.0を行おうと思ったのか。Wisdome2.0とはどんなものなのか。ニューロマインド編集部で、インタビューさせていただいた。

荻野さん、今日は、今度日本で初開催されるWisdom2.0について教えてください。まず、Wisdom2.0とは一言で説明するとしたら何ですか?

Wisdom2.0は、日本語的に言えば「気付きとつながりの国際会議」。このデジタル時代において、叡智ある生き方を実践する方法に気付き、それに興味関心がある人とつながる場です。まず私たちが今どういう時代に生きているのかということから、ご説明いたしますね。

世界で広がるWisdom2.0とは?

――デジタル時代の中で、なぜWisdom2.0が生まれたのでしょうか。

現代は、デジタル化が進んだことで変化が非常に激しくて、答えのない時代です。その中で色々な成果を出すためには、私たち個人も企業のような組織も変わり続ける必要があります。ただ、変化にさらされて、自分を見失って追い立てられるように日々を過ごすのか、そういう時代でも自分らしく生きていくのか。それは、自分たちの「内側のテクノロジー」を開発できるかにかかっています。

Wisdom2.0は、もともと仏教的叡智を学んでいたアメリカの社会活動家ソレン・ゴードハマー氏が、変化の激しい時代に、自分たちの内側にある叡智を知り、「今」をいかに生きるかということを考えて立ち上げたカンファレンスです。

――内側のテクノロジーですか。仏教的叡智と言いましたが、Wisdom2.0は、宗教的なベースがどこかにあるのですか?

僕が過去5回参加した中で得た感覚としては、宗教的にはとてもニュートラルです。アメリカでは、マインドフルネスやコンパッションや仏教の教えは、哲学やライフスタイル、「way of life」つまり生活様式と考える人が多いようです。つまり、宗教ではなく、自分自身を保ち、幸せになっていくための学びと捉えられているようです。

だから、無宗教やクリスチャンの人でも、座禅や瞑想をする人は増えています。

――宗教的にボーダレスになって、良いところは取り入れようという動きがあるということですか?

日本ではオウム真理教事件の影響が大きいですが、宗教に対するある種の嫌悪感というものは、実は日本だけでなく世界的にもあります。特にアメリカではキリスト教がメインで「正義と悪」のような二元論的な世界観がありましたが、それが崩れ始め、特に若い世代で無宗教の人が増えています

「アメリカが正義」と言って戦争を始めるけれど、帰還した兵士はずっとトラウマを負っていたり、富を握っているのは全米のごくわずかな人で、圧倒的多数が貧困にいたり。そうしたことに対して、これまでの社会構造や価値観がおかしいのではないかという流れが世界中で起こっています。

その中で、ライフスタイルや哲学のような、日本語で言うと自己啓発みたいなものが広がっていて、それを先取りしたのがWisdom2.0なのかなと思います。世界中で、普通のビジネスマンにマインドフルネスが広がるきっかけのひとつになりました。

世界のトップが実践しているマインドフルネス

――Wisdom2.0は、どんな方をターゲットとされているんですか?

創設者ソレンさんの言葉を借りると「ターゲットはない」、つまり全員に必要なものだということです。忙しく働くビジネスパーソンから、子育てに苦労しているお母さん、学校の先生など、この時代のなかで自分自身を保って、より良く生きたいと思っている人全員が対象なのです。

――日本で「Wisdom2.0」をやろうと思ったきっかけは何だったのですか?

僕は2014年2月に初めて「Wisdom」に参加したのですが、時代感を捉えたクールなカンファレンスだと思いました。サンフランシスコのマリオットホテルの一番大きいホールに、世界中から3,000人くらいの人が集まり、カンファレンスの冒頭、普通に目を閉じて静かな時間を持つことからスタートがしました。

登壇者は、グーグル、フェイスブック、ツイッターのエグゼクティブやアメリカでも注目されている企業のリーダーや科学者、哲学者など。そういう人たちと、普通のビジネスパーソンなどが一緒に、普通にマインドフルネスを実践する場ができていることに驚いて、素晴らしいと思いました。このような場が世界中に広がれば、みんなが豊かに生きていけるんじゃないかという実現すべき未来の一部がそこにあった気がしたんです。だからそれを日本にも伝えたいと思ったのがきっかけです。

――現代社会を動かしているグーグル、フェイスブック、ツイッタなどのエグゼクティブが実践しているというのは、説得力がありますよね。

ツイッターの創業者やビル・ゲイツなども、定期的に自分だけの世界にこもり、瞑想したり本を読んだり、静かに自分自身とつながる時間を持っています。これからは、豊かな自然の中で何もしない、こうした時間を持つことが、一番贅沢なことだという認識が広がっています

――日本では、特に大人になればなるほど、自分の時間が持ちづらいですからね。

だから日本でもWisdom2.0をやってみたいなと。

構想から実現までには数年かかりましたが、結果として社会的に今ベストな時期になったと思っています。マインドフルネスという言葉は広まりましたが、少し誤解が生じている。やってみたけどよくわかりませんという人が出てきていて。

でも実践を続けている人たちはやはり、仕事のパフォーマンスが上がったり、人生の山谷に直面しても復活が早かったり。だから今は、表面的なマインドフルネスではなく、これは人生において身につけるべき最も重要なスキルとして、世界のリーダーたちが実践していることを伝えるチャンスかなと思っています。

マインドフルネスで、個人、組織、社会が変わる

――今回日本では初めての開催となりますが、すでに何度も行われている海外のWisdom2.0では、参加者は何を得ているのでしょう?

ひとつは、各分野における世界の第一人者たちのプレゼンテーションやトークセッションから、様々な「気付き」を得ることができます。

もうひとつは、「つながり」です。静かな時間を持つこと、または学びを得て内省することで自分自身とまずつながる。また、所属するコミュニティは違えど、共通の価値観を持った者同士がそれぞれの「気づき」を共有することによる「つながり」です。

――荻野さん自身は、これまでにどんな気付きがありましたか?

マインドフルネスというのは個人的な活動かなと思っていたんですけれど、実践することによって、チームや会社も変わるというのが大きな気付きでした。

また、様々なソーシャルチェンジで有名になった人たちが、マインドフルネスを実践して自分を保ち、社会的な活動をしているという事例を知ることができました。そうした方々の活動は今、アメリカの社会を変える原動力になってきています。

――ソーシャルチェンジですか。例えば、どんな方々ですか?

今年3月のWisdom2.0では、フロリダ州パークランドの、テロリストに襲撃されたハイスクールで生き残った学生や、殺された学生の親が登壇しています。彼らは、悲しみを憎しみに変えるのではなく、悲しみからいかに次の叡智を作るかという活動をしています。例えば、彼ら学生がホワイトハウスに向けて銃規制のための数万人規模のデモ行進を実現したり、亡くなった女子高生の父親は銃規制のためのロビイング活動を始めています。

社会変革をしているリーダーたちが、実はマインドフルネスによって自分自身を保ち、プロジェクトを進めているということが多くなってきているのです。

危機を乗り越えて、社会を変える原動力を産み出すために、マインドフルネスが一役買っているんですね。

日本だと、実際に座禅や瞑想を行っていても、その良さを外に向かって伝えるのはまだ少し抵抗があるかもしれません。実践している方が登壇して、こうした考え方を通して、どう変わったのかという話を聞けるのは面白いですね。

日本ではまだ、「瞑想=カルト」のような固定概念がありますが、21世紀になって科学が発達して、瞑想を実践している状態が脳にとって最適であることもわかってきています。瞑想=カルトと言うのは、もはや時代遅れな考え方になるでしょう。

日本にある叡智をアップデートする必要性

――日本とアメリカでは、文化や社会の課題感が違うところがありますが、Wisdomを日本で開催するにあたり、何か変えたことはありますか?

確かにそれぞれ固有の課題はありますが、形は違っても必要なもののベースは同じだと思っています。旧来の価値観で「お金お金」と言っていたのを、少し立ち止まり、これからどういう価値観で生きていかなければいけないのか考え直すことが必要でしょう。

――では基本的に、アメリカでの考えをそのまま持ってきているということですか?

そう見えるかもしれませんが、実は日本にこそ、マインドフルネスの概念がもともとあると考えています。それは、禅や武道、茶道、華道などの、日本の「道」の世界です。

僕自身、華道を1年半くらい習っているんですけど、華道はまさに自分のコンディショニングだなと思います。花器と花材に向き合って、花をどう差せばどういう空間を作れるのかを考える。今の目の前の流れを読むには、普段思考しているアプローチではなく、感じなくてはいけないわけです。「今ここ」を感じるのはまさにマインドフルネスです。華道も「今ここ」を感じ、自分のひらめきを喚起させる、すごいメソッドだと思います。

今、マインドフルネスは海外から逆輸入的に来ていますが、日本の叡智は既にここにあるんです。だからこそ、例えば日本の禅や武道といったWisdomは世界から注目されています。

今回のWisdom2.0では、私たち日本人自身が今一度その日本の叡智を思い出し、今の時代に合ったアプローチにしていく場にしたいですね。

――日本にもともとあった叡智のアップデート。今回登壇される方で、そうした日本の伝統文化に携わられている人もいるのですか?

今、3名決まっています。

1人目は藤田一照というお坊さん。『アップデートする仏教』という本を書かれており、仏教や禅を今の時代に合わせてアップデートしなくてはならないと言っている方です。

2人目は、「IKERU」という華道教室をしている山崎繭加さん。彼女はもともとマッキンゼーのコンサルタントで、ハーバードのビジネススクールに就職し、日本企業のケーススタディを作っていた人です。新幹線の清掃会社や東日本大震災の復興に関する事例のケーススタディは海外でも注目を集めています。彼女が教える華道は、その人のクリエイティビティを喚起させるようなアプローチです。

3人目は、石笛奏者の横澤和也さん。自然の石にひとつだけ穴があいた石笛(いわぶえ)の奏者です。このようなシンプルな石笛は、古来から神事で使う笛。古代の自然崇拝の中でも用いられていた、もっとも古い楽器の一つとも言われているようです。

こうしたwisdomの実践者に登壇していただく予定です。

世界のリーダーたちから発信し、マインドフルネスを社会のOS(オペレーションシステム)に

――日本初開催のWisdom2.0、見どころについて、教えてください。

現代を生きる叡智に関する、世界の第一人者が集まるところですね。

――どんな人が登壇するのかご紹介いただけますか?

テクノロジーの分野では、Google社内で倫理デザインをしていたトリスタン・ハリス氏が登壇します。

僕たち世代はもうテクノロジーにハックされてしまっていると言われています。YouTobeをずっと見てしまうとか、SNS中毒になるのは、世界の一流の研究者たちが、いかに注意を奪っていくかということを研究してデザインしているから。気付かないうちに、どんどんテクノロジーに心を侵されていくわけです。

そんな中で彼は「エンジニアやテクノロジーを作る人たちが倫理観や良心を持たないと、人間は本当にテクノロジーにコントロールされてしまう」と警鐘を鳴らしています。

他には、現在注目されているポジティブ心理学の研究者として第一人者と言われるバーバラ・フレデリクソン氏、世界のトップリーダーのメンターであり、禅僧、そして、社会活動家もあるジョアン・ハリファックス博士などが登壇します。

――日本ではマインドフルネスや瞑想を実践している経営者も多いですが、あまり表では言いませんよね。今後日本でもアメリカのように、堂々とリーダーの方たちにやっていると声を上げてもらうために、世界の第一人者を呼んでWisdom2.0を行いたいということでしょうか。

僕は、マインドフルネスの習慣を社会のOS(オペレーションシステム)にしたいと思っています。それを効率的にするには影響力が必要で、だから影響力をすでに持っている人に登壇してもらい、多くの方に参加していただきたいです。

日本でヨガが流行り始めるときも、最初はいかがわしいものとして見られていました。でも今はエビデンスもあるし、セレブの人たちがやっているのでかなり浸透しましたよね。マインドフルネスや瞑想も、5年か10年でそうなっていくのではないかと思います。

マインドフルネスは日常生活の中で実践することが大事だし、日々一瞬一瞬が練習で、近道はないということを伝えていきたいですね。

――まさに冒頭の「内側のテクノロジー」の開発ですね。リーダーたちの言葉で、マインドフルネスってこういうものだよと、もう一度定義し、正しく発信するサポートも、このWisdom2.0の役割になるのですね。

価値観の転換が迫られる年、2020年

――現代社会の問題は、わかりやすい解決策がないことが多いですよね。そんな中、Wisdom2.0とも言うべき、私たちがより良く生きるために身につけるべき叡智とは、具体的にはどのようなものなのでしょうか。

それを見極めるためにも、ぜひWisdom2.0に来て参加してみていただければ(笑)。

一つ言えるのは、今までの価値観の転換が大事だということ。例えば、日本ではオリンピック以降、経済的にかなり厳しくなるかもしれません。そのときに「お金=幸せ」という価値観だとどんどん厳しくなってしまう。だからこそ、本当の豊かさというのを考えていかなければならないでしょう。

また、気候変動などによって、これからは天災もますます増えると予想されています。僕たちには、そこからいかに立ち直っていくかというレジリエンス-回復力、復元力-も必要になります。

職場の中ではメンタルヘルスが改善されなかったり、働き甲斐のある職場がなかったり。さらに、一社で勤めあげなくてはいけないという日本の価値観もどんどん崩れています。そのときに、自分の固定概念に気付き、新しい道に勇気を出して一歩を踏み出せるのかが重要になるでしょう。

価値観の変換を起こしていくために大事なのが、「気付きとつながり」だと僕は思っています。

自分をどう保つのか、どう変わっていくのかという気付きを自身で得ること。一方で、つながりを感じにくい時代の中でも、同じように好奇心を持って、大変な時代を乗りこなしていく仲間とつながること。

その両方の要素を感じられるのが「Wisdom2.0」なのです。

変化する時代の中で、自分の価値観を変えていくきっかけに出会えるのが、Wisdom2.0ということですね。

2020年というのは本当に大事な年です。オリンピックの盛り上がり以降のことを考えると、一人ひとりが価値観の転換を起こしていかないといけないでしょう。
そのために大切な「気付きとつながり」、それを感じるためにも、ぜひ「Wisdom2.0」の会場に足をお運びください!

実は、ニューロマインド編集部でも、当日参加させていただく予定です。我々が現在開発している新しいサービスのお披露目もできるかも??詳しくはWisdom2.0にて!

Wisdom2.0 Japan 開催情報

日時:2020年3月21日(土)・22日(日)
場所:虎ノ門ヒルズフォーラム

※2019年12月31日までの早割チケットはこちらまで

荻野淳也(おぎの じゅんや)/合同会社wisdom2.0 Japan共同創設者・マインドフルリーダーシップインスティテュート代表理事
慶応大学卒、外資系コンサルタントやベンチャー企業のIPO担当や取締役を経て、リーダーシップ開発、組織開発の分野で、一部上場企業からベンチャー企業までを対象にしたコンサルティング、トレーニング、エグゼクティブコーチングに従事。ミッションマネジメント、マインドフルリーダーシップ、マインドフルコーチングという軸で、リーダーや組織の本質的な課題にフォーカスし、リーダーや組織の変容を支援している。Googleで開発されたSIYの認定講師。
書籍は「世界のトップエリートが実践する集中力の鍛え方」(日本能率協会出版 共著)、監修・解説として「マンガでわかるグーグルのマインドフルネス革命」(サンガ出版)「スタンフォードの脳外科医が教わった人生の扉を開く最強のマジック」(ジェームス・ドゥティ著 プレジデント社)など多数。

(聞き手・編集・撮影:齋藤理、文:向井 雅代)